人は辞めた。それでもルールは変えなかった—統合後のリアル〈京千・第2回〉

第1回の記事では、北海道・室蘭の専門工事会社・株式会社京千(以下、京千)の代表取締役・木藤千秋氏(以下、木藤氏)が、「経営に大きな不安はなかった」と語りながらも、会社をエルライングループへ託す決断をするまでを記録しました。今回はその後——グループインしたあとに、京千の現場で実際に起きたことをお伝えします。

結論から言えば、統合はなめらかな道のりではありませんでした。最初に変わったのは「管理」であり、その変化に反発して会社を去った職人もいます。それでも木藤氏は、一度決めたルールを、元に戻しませんでした。PMI(買収後の統合)のリアルを記録します。

目次

グループイン後にまず変わることー「管理」の導入

グループインして、京千でまず変わったのは「管理」でした。勤怠の管理、業務の報告、チャットでの連絡。これまでの京千にはなかった仕組みが、次々と入ってきます。

木藤氏は当時を、正直に振り返ります。すぐに「変わってよかった」と思えたわけではありませんでした。

「先を見ればプラスだとわかる。でも、その時はマイナスにしか感じませんでした。」

難しかったのは、木藤氏自身もまた、グループインしたばかりだったことです。新しい仕組みの意図を消化しきる前に、現場へ展開しなければならない。「言われたことを、そのまま伝えるしかなかった」と木藤氏は言います。今なら違う伝え方ができる、とも。当時は、経営者である自分自身が、変化の途中にいたのです。

ルール導入で職人が辞めた|M&A後の反発と向き合う

変化は、現場に摩擦を生みました。勤怠などのルールが入ったことで、5人ほどの職人が会社を去っていきます。

「管理されるのが嫌だ、と。給料が増えるわけでもないのに、やることだけ増える——そういう受け止めでした。」

反発の理由は、わからないものではありません。実際には年間休日が120日に増え、実質的に待遇改善はしていました。それでも、日々の現場では「手間だけが増えた」と映る。

それでも木藤氏は、ルールを元に戻すことはしませんでした。慣れるまでは、これからも反発して辞める人が出るかもしれない。それでも、後戻りはしない。そう腹をくくっていました。

ここに、PMIの難しさが凝縮されています。仕組みを入れること自体は決められても、それを現場が受け入れ、当たり前にしていくまでには、必ず時間と摩擦が伴います。京千が越えようとしているのは、その壁でした。

原価・人工が見える管理アプリで変わったこと

摩擦の象徴だった仕組みのひとつが、現場の原価や人工(にんく)を可視化する管理アプリでした。導入当初、現場の反応は冷ややかだったといいます。

「最初はめんどくさい。なんでこんなことを、と。でも続けるうちに習慣になって、今はいいものだと思っています。」

アプリによって、案件ごとの粗利が見えるようになりました。見積もりの段階のデータも入っているため、当初いくらの実行予算で考えていたか、結果はどうだったかを突き合わせられる。数字が見えれば、次の現場の改善につながります。

一方で、浸透にはまだ時間がかかります。職人はあまり画面を見ず、管理職は見ても、コスト意識にまで結びつくところまでは至っていない。仕組みが「使われる」状態になるには、もうひと段階が必要だと木藤氏は感じています。

協力会社への展開も、同じ課題を抱えています。ある程度の規模がなければ、こうしたアプリの運用は負担になる。小さな会社にとって、新しい仕組みは必ずしもやさしくありません。ここをどう乗り越えるかは、京千とグループのこれからのテーマです。

M&Aで経営者はラクになる?むしろ忙しくなった理由

グループに入って、経営者としてラクになったのか。木藤氏の答えは、はっきりしています。

「ラクになったことはない。逆に、忙しくなりました。」

営業に出るようになり、目標の設定や経費の精算など、これまでになかった業務が増えました。会計まわりの細かな勘定はしなくてよくなりましたが、空いたはずの時間には、また別の何かが入ってくる。負荷の中身が変わった、というのが実感に近いようです。

だからこそ今、木藤氏が進めているのが権限の委譲です。見積もりや請求といった実務はできるだけ早く手放し、自分は経営そのものに時間を使いたい。統合の負荷を引き受けながら、その先の体制づくりに動き始めています。

管理が変わり、人が入れ替わり、見えるものが増えた。京千の「内側」は、摩擦をともないながらも、確かに動き始めていました。次回は「外側」——単独では届かなかった現場へと広がっていく、掛け算のシナジーの正体を記録します。

この記事を書いた人

水野源太
株式会社エルライン 社長室 1級電気工事施工管理技士

新卒で大手総合設備会社に施工管理として就職し、大型現場の再開発工事を経験。その後、建設人材派遣会社へと移り、複数現場で施工管理としての実務経験を積む。1級電気工事施工管理技士に合格したのを機に、同社の本社へと出向し、教育に携わる。2024年4月にエルライングループにジョインし、教育や採用、広報・デジタルマーケティング・新規事業開発などに従事。

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