前回の記事では、日成工業株式会社(以下、「日成工業」という)」がエルライングループに加わった経緯と、財務立て直しのプロセスをお伝えしました。純資産マイナスからの回復には、キャッシュフローの正常化が大きな役割を果たしていましたが、もう一つ、同時並行で進めていた変化があります。工事のたびに外に出ていくお金を、いかに社内に残すか。その答えとして選んだのが、内製化でした。
今回は、自社職人をほぼゼロから増やしてきた経緯と、気づけば求人媒体に頼らなくても職人が集まるようになった話をお伝えします。
利益が残らなかった、もう一つの理由——多重下請け構造と外注費の実態
建設業界には、元請けから下請け、さらにその下へと仕事が流れていく「多重下請け構造」が長年続いています。工事が流れるたびに中間マージンが発生し、実際に施工を担う会社には利益が残りにくい。日成工業もその構造の中にいました。
「M&A前までは、職人の採用はしていませんでした。」
と口田氏(現、日成工業代表)は言います。グループイン前の日成工業は、工事の多くを協力会社に依頼していました。
工事にかかる原価(完成工事原価)のうち、70〜80%が外注費でした。自社で施工できる体制がほぼなかったことを示しています。売上に対して外注費が膨らむほど、会社に残る利益は薄くなっていきます。財務を紐解いた時に見えてきた「構造的に儲からない理由」は、キャッシュフローの問題だけではありませんでした。
外注費70〜80%、粗利率7.5%——数字が示した、内製化という答え
外注から内製化への転換は、数字から導き出した判断でした。
仮に協力会社へ日給2万5,000円で依頼し続けると、1人分だけで月50万円が外に出ていきます。一方、月給25万円の自社社員が同じ仕事をすれば、粗っぽく言えば半分のコストで済む。差額が、そのまま利益になります。
「下請けさんにはただお金が出ていっちゃうだけ。自社社員でやらないと、儲かる体質にはならない。」
と口田氏は話します。
内製化を進める中で、これまで一緒に仕事をしてきた協力会社との関係は大切にしながら、自社の体制が整うにつれて少しずつバランスを変えてきました。一気に切り替えるのではなく、段階的に移行していくやり方です。
その結果、外注費の比率は70〜80%から現在は60〜65%まで改善しました。一方、自社労務比率は現在15%であり、外注比率と比べるとまだ低い水準にあります。内製化はまだ道半ばです。
粗利率はM&A前の平均7.5%から、2025年9月末時点で11%、2026年4月時点で13%へと改善しています。外注依存の構造を変えることが、利益体質に直結していることを示しています。

求人媒体に頼らなくても、職人がほぼゼロから16名になった
内製化を進めるには人が必要です。ただ、日成工業が選んだのは求人広告を増やすことではありませんでした。
現在の採用の主軸は、既存社員からの紹介——リファラルです。1人が入り、その人がまた1人を連れてくる。その連鎖が自然に続いています。
「求人媒体への出稿を止めているくらいです。それなのに、従業員19名のうち自社職人16名の体制まで来ました。」と口田氏は言います。ただし、紹介会社経由の採用や紹介に伴うコストが全くないわけではありません。求人媒体への出稿をやめても人が集まるようになった、というのが正確なところです。
なかでも印象的なエピソードがあります。北海道から入社することになったBさん(防水職人)の話です。
「他の会社は社宅があって、その分を考えるとうちは条件が安い。それでもうちに来たいと言ってくれた。どうしても入りたいので、採用通知を出してもらえませんか、と言ってくれた。」
と口田氏は振り返ります。社宅もなく、給与水準も決して高くない。それでも選ばれた理由は何か。

数字が変わると、現場の空気も変わる——人が人を呼ぶ仕組みへ
職人が増え、外注費比率が改善したことで、財務への影響も出てきました。以前は支給できなかったボーナスを出せる体制に移行しつつあります。そうしたことが、また次の採用につながっていく。数字の変化が現場の変化を生み、現場の変化がまた人を呼ぶ。その循環が、今の日成工業の採用力の正体かもしれません。
内製化はまだ続いています。4月からは防水職人も加わる予定で、グループのリニューアル事業部との連携のもと、塗装・防水をグループ内で完結させる体制を目指しています。
「協力会社に頼まないで、自分たちで全部やれる体制が、半年くらいすればできてくるのかな。」
と口田氏は話します。
変わったのは採用の仕組みだけではありません。次の記事では、経営会議で職人に会社の数字を教えるという、口田が始めた異例の取り組みをお伝えします。

この記事について
本記事は2026年3月に実施したインタビューをもとに構成しています。登場する数値は取材時点の情報であり、将来の結果を保証するものではありません。


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