連続買収で建設業界を変える株式会社エルライン(以下、エルライン)が、自社の事例をもとに記録するM&A事例シリーズ。北海道・室蘭の専門工事会社・株式会社京千(以下、京千)を率いる代表取締役・木藤千秋氏(以下、木藤氏)へのインタビューを、全4回にわたってお届けしています。
第1回・第2回では、会社を託す決断と、グループインがもたらした「内側」の摩擦を記録しました。第3回となる今回のテーマは「外側」——受注です。グループに入って、京千が立てる現場は、明確に広がりました。足し算ではない「掛け算のシナジー」の正体を、具体的な事実で記録します。
グループの営業本部という後ろ盾|受注はどう変わったか
京千はこれまで、自ら営業をかけることがほとんどありませんでした。仕事は紹介や既存の取引先を通じて回ってくる。それが、専門工事会社としての通常の姿でした。
グループインで大きく変わったのが、グループの営業本部という後ろ盾です。京千が「この会社とつながりたい」と思えば、営業本部がアポイントを取り、窓口まで連れて行ってくれる。案件の情報そのものを持ってきてくれることもあります。
「営業本部があるのは、本当にありがたい。『こことつながりたい』と言えば、アポを取って窓口まで連れて行ってくれるんです」
実際に、グループの営業ネットワークを通じて、これまで縁のなかった大型の新築案件の足場工事を受注しています。半年がかりで動いた案件もありました。「躯体一式で請けられる」という提案からつながり、その中で京千が専門工事を担う——単独では生まれなかった受注の形です。
取引できる大手ゼネコンが3社→5社へ —— 受注の「質」変化
変化は、受注の「量」だけではありません。「質」が変わりました。
グループインの後、京千が参画できる大手ゼネコンの現場が増えています。もともと取引のあった3社に加え、グループイン後に新たに2社の現場へ参画。取引できる大手ゼネコンは、あわせて5社になりました。札幌の大型再開発のような、規模の大きな現場への参画も進んでいます。
専門工事会社にとって、「どの現場に入っているか」は信用の証です。大手ゼネコンの現場で実績を重ねることが、次の仕事を呼び込む。受注先の顔ぶれが広がってきたことは、京千が少しずつ多くの現場で信頼をいただけるようになった、その積み重ねの表れだと木藤氏は受け止めています。
「信頼されている人がつないでくれる。『あの会社なら大丈夫』と言ってもらえることが、次の現場につながっていくんです」
一次請けに入る意味(利益・段取り・採算の裁量)
受注先が広がったこと以上に大きいのが、「どの立場で入るか」の変化です。
重層的な下請け構造を持つ建設業では、一次請けで入るのか、二次・三次請けで入るのかによって、現場の進め方も採算の組み立て方も大きく変わります。一次請けで入れれば、段取りから採算まで、自分たちで設計できる余地が広がります。指示を受けて動く立場とは、現場への関わり方そのものが違ってくるのです。
「一次で入るのと、二次・三次で入るのとでは、利益も現場の進めやすさも全然違う。そこを取れるのは大きいです。」
グループの営業力を背景に、京千が一次請けのポジションを取れる現場が増えました。その効果は、数字にも表れています。グループイン初年度と2025年9月期で、売上は約1.7倍、粗利は約2倍に伸びています。一次請け化と、案件規模の拡大が、その大きな要因です。
案件が大きくなることには、もう一つの意味があります。稼働できる人数を確保しやすくなることです。職人を遊ばせず、安定して現場を回せる。規模の拡大は、利益だけでなく、組織の安定にもつながっています。

北海道内の資材連携と「増やさない」判断
掛け算のシナジーは、攻めの受注だけにあるのではありません。守りの判断にも表れています。
京千はもともと資材センターを持ち、材料も自前で抱えてきました。以前は、その保有量をさらに増やしていく方針でした。ところがグループインを機に、木藤氏はその方針を転換します。
自社で抱え込むのではなく、グループ全体の資材と体力を活かす。北海道内にグループの資材拠点があることで、道外から運ぶよりも調達を回しやすくなります。京千単体で見れば「自前で持つ」方が合理的に見えても、グループ全体で見れば、抱え込まない方が効率的なのです。
営業、受注、そして資材。グループに入って、京千が立てる現場は広がり、受注の質は変わりました。これは、二社を足し合わせた以上の効果——まさに「掛け算のシナジー」です。では木藤氏は、この先の京千をどこへ導こうとしているのか。最終回となる次回は、北海道の未来構想と、事業承継を考える経営者・若き職人へのメッセージを記録します。




コメント