前回の記事では、外注依存の構造を変えるために自社職人の採用に踏み切り、リファラルによって人が集まる仕組みができていった話をお伝えしました。人が増え、外注費が減少した。しかし、口田氏(現、日成工業株式会社 代表)が目指していたのは単に人を増やすことではありませんでした。
増えた職人たちが、会社の利益を自分ごととして動く組織にする。そのために始めたのが、経営会議でした。
3ヶ月に1回、職人も経営数字と向き合う
グループインから間もなく、口田氏は一つのルールを作りました。3ヶ月に1回、職人を含む全社員を集めて経営会議を開く。そこで共有するのは、売上でも計画でもなく、「会社の数字の見方」でした。
「3ヶ月に1回くらいやります。そもそもの数字の見方から共有します。職人さんだったにしても全体で入れています。」

職人に経営数字と向き合わせる会社は、建設業界では多くありません。それでも口田氏がこだわった理由は、シンプルです。数字を知らなければ、何のために効率化するのかがわからない。わからなければ、動かない。
「このデータの単位は1,000円になる。売上からみんなが動いてくれた原価を引くと粗利と呼ばれる利益が出る。自分達の給与が原価に含まれるということを意識して欲しい」
抽象的な「会社のため」ではなく、自分たちが扱っている数字の実感を持たせることから始めました。
「自分たちが稼ぐ」——数字が腹落ちした時、行動が変わった
経営会議で最も力を入れて伝えるのが、売上総利益と賞与の関係です。
「みんなのがんばりによって利益を出すことができる。現場で費用をかけすぎて利益が残らないとみんなに賞与として還元できない。」
以前は夏と冬に賞与が出ていた時期もありましたが、業績の波によって支給できないこともありました。その原資がどこから来るのか。口田氏は、自分たちの働き方や費用の使い方が直接影響するという事実を、数字を使って社員等と向き合っていきました。
それにより、M&A直前はほぼゼロだった賞与支給額が、現在は基本給の1.0〜1.5倍まで改善しています。(2025年9月期実績)
数字が腹落ちすると、行動が変わりました。人数の配置を工夫し、可能な工事は自社で進め、外部への支出を適正化していく。そういった判断が、現場レベルで自然に起きるようになってきたといいます。

*2025年9月期、株式会社日成工業(以下、日成工業) 実績
ルールが守られなければ払えない——仕組みで動く組織へ
経営会議で数字を共有するだけでは、組織は変わりません。口田氏はもう一つの仕掛けを作りました。ルールが守られなければ、給与・残業代を支払えないという明確な基準です。
「残業も事前申請制としており、適切な勤怠管理の徹底を進めている。」
当初は習慣化されるまでに時間がかかりました。「反発っていうのはなかったんですけど、やらない人が多かった」と吉住氏は振り返ります。それでも、口田氏はルールを変更することはありませんでした。チャットツールで全社員の予定と日報を共有させ、誰がどこで何をしているかを見える化しました。
「日次で追いかけを行い、社会人として当たり前に対応するルールは全員が対応できるようにすると伝えています。」
と口田氏は言います。
徐々に、ルールが当たり前になっていきました。新しく入ってきた社員にとっては、最初からそれが普通の職場として映ります。古くからいる社員も、「やらないとまずい」という意識に切り替わっていきました。
数字を自分ごとにした組織は、自ら動き始める
数字を共有し、ルールを整え、透明性を作る。その積み重ねが、組織の空気を変えていきました。
「こんなにもらえるんですか?」
と、新入社員Aさんの反応を口田氏は振り返ります。以前は支給できなかった賞与が、数字を意識して動いた結果として手元に届く。その体験が、また次の行動変容を生み出しました。
離職率についても、変化が数字に現れています。塗装業の小規模企業では離職率が15〜20%程度とされる中(※)、日成工業の2025年10月〜2026年3月の上期離職率は5.6%でした。数字を共有することで生まれた一体感と、現場の働きやすさが、この定着率に表れているのかもしれません。
※参考:人材採用ガイド「塗装業の離職率改善ガイド」
https://saiyou.more-andf.jp/turnover-improvement-guide/painting
吉住氏はこう話します。
「みんながまとまって、同じ目標に向かっているんじゃないかという気がしています。」
経営会議は、PMIの手段であると同時に、組織文化を作る装置でもあります。職人が会社の数字を理解し、自分の仕事が賞与に直結していることを知る。その体験の積み重ねが、今の日成工業の土台になっています。
変わったのは組織の内側だけではありません。次の記事では、LLINEグループとの連携が生んだ「掛け算のシナジー」——足場・塗装・防水を一気通貫で受ける体制の実態をお伝えします。

この記事について
本記事は2026年3月に実施したインタビューをもとに構成しています。登場する数値は取材時点の情報であり、将来の結果を保証するものではありません。



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