「足場に使うスタンションって、正直ちゃんとわかってないかも……」
「いつも通りに足場にスタンションを取り付けたら、協力会社の人からダメ出しがあって焦った」
見たことはある、使ったこともある、なんなら使い慣れてさえいるスタンション。
それでも、「自分の理解ややり方、実は間違ってた?」と不安になることがあるのではないでしょうか。
スタンションは墜落・転落リスクのある場所に設置する墜落防護工の一種。
ここまでは、多くの方がご存知の内容かもしれません。
一方で、スタンションには複数の種類があり、その仕様や取り付け方法がそれぞれ異なるため、混乱することがあるのも事実です。
なぜ複数の種類があるのかというと、「墜落・転落リスクのある場所」はひとつではなく、使用する場所や足場のタイプによって、形状や固定方法が変わってくるためです。
だからこそ、そうした種類や特徴をよく理解した上で、現場に合った正しい使い方をすることがとても重要となってきます。
「多分合ってる」
「今までこれで問題なかったから大丈夫」
取り付け方を誤ると墜落災害につながる恐れがあるスタンションだけに、そんな慣れや思い込みが、現場では一番危険です。
現実に、スタンションの関係する事故も起きています。
そこで、本記事では、以下のポイントについてわかりやすく解説します。
この記事を読むとわかること
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本記事をお読みいただくことで、足場におけるスタンションに関する知識がきちんとアップデートされ、これからの現場で自信を持って安全に取り扱えるようになります。
ぜひ最後までお読みいただき、「正しく理解して、正しく使い、安全で信頼される現場を実現する」ためのヒントをつかんでください。
1. 足場で使うスタンションとは

「スタンションって、手すりをつける柱のことでしょ?」——もちろん、それで合っています。
でも、もう少しだけ厳密に言うなら、スタンションとは、「通路や作業床の縁、架設構台や開口部など、作業員が墜落・転落するリスクのある場所に設置する仮設の束柱(つかばしら)」のことです。
「ガードポスト」と呼ばれることもあります。
スタンション本体には、手すりや防護柵を取り付けるための構造があり、これらを組み合わせることで作業員の墜落を防止します。
ただの補助的な資材ではなく、安全確保の最前線に立つ、高所での作業中に特に重要な存在といえるのがスタンションなのです。
実は建築現場以外でも活躍する「スタンション」 |
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実はスタンションは、建築現場に限らず、さまざまな場所で使われています。 ただし、名前は同じでも、用途や形状は建築現場で使われるものとは大きく異なります。 たとえば、 ・電車やバスの車内で、乗客が揺れに備えて手でつかむために設置されている、床から天井まで伸びた縦の棒(スタンションポール) ・受付カウンター・店舗・イベント会場などで列や通行を整理するためなどに使われるポール型の仕切り(ポールスタンション、ポールパーテーション、ベルトパーテーション) などは、日常でもよく目にするスタンションの例です。 ![]() スタンションという言葉自体は、「支柱」や「仕切り棒」といった柱状の構造物全般を指すため、必ずしも「足場で使うアレ」だけを意味するわけではないのです。 |
2. 「あれ?スタンションって全部同じじゃないの?」──現場でよくある4つの疑問をまとめて解消!

前章でスタンションとは何か、そしてその役割や意義について説明しましたが、「自分の認識と概ね一致している」と感じた方は多いのではないでしょうか。
ですがその一方で、現場でスタンションを取り付けていて、ふと疑問を抱いたり、戸惑ったりした経験があるという方も少なくないはずです。
そこで本章では、スタンションを巡る下記の4つの「よくある疑問」をピックアップしながら、現場でありがちな勘違いや混乱しやすいポイントを整理していきます。
Q.手すりでも開口部でも使うけど、どちらも同じモノなの?別モノなの? Q.「スタンション=親綱支柱」だよね? Q.「スタンション」と呼ばれているものの形が現場によって全然違うんだけど? Q.固定方式が違うスタンションに遭遇したんだけど……? |
「ちゃんと分かっていたつもりだったけど、実は……」というモヤモヤがスッキリするだけでなく、こうした「ちょっとの違い」を知っているかどうかは、現場の安全を守る上で大きな差を生みます。
以下でひとつずつ確認していきましょう。
2-1. Q.手すりでも開口部でも使うけど、どちらも同じモノなの?別モノなの?
A. 別モノです。
実はスタンションには、「第1種スタンション」と「第2種スタンション」という、2つの種別(=規格)があるのです。
どちらも墜落防止を目的とした仮設手すりの束柱ですが、求められる安全性能に差があるため、使い分けが必要です。
種別 | 使用場所 | 高さ要件 | 強度(取付部の脱落・緩み、たわみ、曲げ) |
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第1種 | 以下のような場所(=墜落の危険性が高い場所)に設ける防護工に使用する
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床面から上桟取付部までの高さが95cm以上 | (第2種よりも)高 |
第2種 | 第1種に掲げるような場所以外の場所(=墜落の危険性が比較的低い場所)に設ける防護工に使用する | 床面から上桟取付部までの高さが90cm以上 | (第1種よりも)低 |
上記の区分は、一般社団法人仮設工業会による認定基準に基づいています。
第1種を取り付けるべき場所に、強度と高さで第1種に劣る第2種スタンションを取り付けるのは、NGです。
2-2. Q.「スタンション=親綱支柱」だよね?
A. 厳密には違います。
確かに見た目も似ており、スタンションを親綱支柱として使っている現場は多いですが、スタンションは、あくまで手すりを取り付けるための束柱です。
親綱を張るための親綱支柱とは別モノであり、ここを混同してしまうと、安全性の面で非常に危険です。
なぜなら、スタンションと親綱支柱とでは強度が異なるからです。
前項で言及した仮設工業会による認定基準も、「手すりを取り付けて使用する場合の条件」であり、「人の体重+落下時の衝撃」に耐える強度は保証されていません。
事実、仮設工業会は、次のように明言しています。
墜落防護のため上桟(手すり)及び中桟を取り付けるための束柱のことをいうもので、安全帯取付設備の親綱支柱としての性能を保証するものではない。
つまり、あくまで手すり用のスタンションに親綱を張り、そこに安全帯を引っかけた場合、万一の墜落時にスタンションが耐えきれず破損し、重大事故につながる恐れもあるということです。
ただし、製品によっては、スタンションとしても親綱支柱としても使用できる設計になっています。
したがって、スタンションを親綱支柱と兼用したいのであれば、「親綱支柱としても利用可能な強度・構造である」ことをメーカー側が謳っている製品を選ぶ必要があります。
もし親綱支柱の機能がないスタンションを使うのであれば、「一つで済ませよう」と安易に考えず、親綱支柱を併用しましょう。
2-3. Q.「スタンション」と呼ばれているものの形が現場によって全然違うんだけど?
A. スタンションには用途に応じた複数の種類があるからです。
スタンションとひと口に言っても、たとえば以下のようなバリエーションがあり、それぞれ仕様が異なります。
種類 | 特徴 |
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汎用的なスタンション | 作業床の縁から鉄骨フランジまで、幅広く取り付け可能なタイプ |
建枠用スタンション | 枠組足場で親綱支柱も兼ねて使われる基本タイプ |
鉄骨用スタンション | H鋼や鉄骨の梁に取り付けて使うタイプ |
パラペット用スタンション | 屋上の立ち上がり部分(パラペット)に設置するタイプ |
折板屋根用スタンション | 工場などの折板屋根に対応した専用設計となっているタイプ |
構台用スタンション | 重機が回転する際に手すりが干渉しないよう、上下にスライドして高さを調整できるタイプ |
(※汎用的なスタンションには第1種と第2種がありますが、他はすべて仮設工業会認定品である時点で第1種相当ということになります)
現場ごとの状況が異なれば、「今回の現場で使うスタンションは、自分の知っているスタンションとは別モノ」ということが起こり得るというわけです。
複数のシーンで使えるものもあれば、特定のシーン専用のものもあります。
それぞれのスタンションの特徴や適した使い方を把握し、現場に応じて正しく選定・使用することが、安全確保のために重要です。
高所以外でも設置されるスタンション |
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建築現場で使われる「スタンション」であっても、足場のような高所に設置されるとは限りません。 たとえば、道路工事などで使う覆工板(通行路確保のためなどに敷設する仮設床)に設置する「覆工板用スタンション」は、地面の高さに設置されます。 とはいえ、地中の穴に転落するのを防いだり、段差でつまずいて転倒するのを防いだりするために設置されるため、「墜落・転落防護工」の一種と位置づけられます。 |
2-4. Q. 固定方式が違うスタンションに遭遇したんだけど……?
A. スタンションの固定方式にもバリエーションがあります。
先にご紹介したように、スタンションには用途や設置場所に応じた複数の種類があり、それぞれ仕様が異なります。当然ながら、固定方式にも違いが生じるのです。
具体的には、次に挙げるような固定方式のバリエーションがあります。
固定方式 | 特徴・用途 |
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縦噛み方式 | 鋼材などの上部から縦方向に挟み込む(噛みつく)方式。 主に山留腹起しやH型鋼梁など、上からアクセスできる部材に対応 |
水平噛み方式(H型) | 設置部が垂直になっている部材に対して、水平方向に噛みつかせて固定する方式。 梁や壁の側面など、縦方向ではなく横方向にクランプする必要がある場所に対応 |
斜め噛み・兼用タイプ (多機能型) | 複数の固定方向(垂直・水平・斜め)に対応できる多機能型。 さまざまな部材の形状や方向に合わせて取り付ける必要がある場所で重宝する |
ボルト・クランプ固定方式 | 皿バネ付きのボルト2本などで、鉄骨や床スラブなどに挟み込んで固定する方式。 平行専用型や斜め型など、バリエーションあり。 鉄骨やコンクリート床の縁など、しっかりと固定したいケースに対応 |
固定方式が一律ではない以上、「前の現場と違うけどまぁいいか」と流してしまうと、安全性を損なう恐れもあります。
初めて扱う種類のスタンションに出会ったときは、つかみ厚などの製品固有の使用条件も含め、事前に正しい固定方法を確認することが大切です。
次章では、スタンションの種類ごとに異なる固定方式を理解し、それぞれに適切に対応することがいかに重要かを、実例を交えて解説します。
3. 甘くみてはダメ!スタンション取り付けミスが招く重大事故

スタンションの取り付けを軽視すると、重大な墜落事故につながる可能性があります。
設置環境や使用目的に応じた適切な種類を選ぶのは大前提ですが、たとえ適切な種類を選んだとしても、固定方法を誤れば、墜落防止の役割を果たせないからです。
実際に、スタンションが外れたことによって作業員が命を落とす事故も起きています。
柱頂部に取り付けられたスタンションに接続された安全ブロックを使用して作業員が柱にのぼり、梁の位置調整作業を行っていたところ、何らかの原因でスタンションが外れ、安全ブロックごと墜落したのです。
[参照]建設業労働災害防止協会 愛知県支部「平成28年 愛知県内建設業死亡災害事例」
繰り返しとなりますが、設置環境や使用目的に見合っていて、親綱支柱としての性能も保証されているスタンションを使っていても、取り付けに不備があれば、命に関わる結果を招きかねません。
「まあ大丈夫だろう」
「いつもこうしてるし」
といった慣れや油断から「なんとなく」で取り付けてしまうことは絶対に避けましょう。
4. 足場でのスタンション使用時に遵守すべき4カ条

「3. 甘くみてはダメ!スタンション取り付けミスが招く重大事故」では、スタンションの取り扱いミスが重大事故につながる可能性について、具体的な事例を交えて解説しました。
これを踏まえ、本章では、スタンションを安全に使用するために遵守すべき4つの基本事項を紹介します。
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日々の現場作業での安全確保のため、以下で確認しておきましょう。
4-1. コーナーのスタンションに取り付ける親綱は1方向のみにしよう
スタンションをL字型のコーナーに設置する際、平行方向と直交方向の2本の親綱を同時に取り付けることは避けましょう。

厚生労働省発行のガイドライン中にも、この点についての言及があります。
コーナーに使用する支柱には平行方向と直交方向の2本の支柱用親綱を同時に取り付けないこと。
1本のスタンションに2方向の力が加わると、設計上許容された荷重を超えてしまい、破損や転倒のリスクが高まります。
必ず1方向に対して1本のスタンションを使用し、安全性を確保してください。
4-2. スタンションは堅固な箇所に固定しよう
スタンションを取り付ける際は、取り付け箇所の強度を十分に確認し、堅固な場所に確実に固定しましょう。
例えば、鉄骨造(S造)の建物でよく見られるケースとして、パラペットの中央部が空洞になっていることがあり、そこをスタンションで挟み込むと、パラペットが破損する恐れがあります。
取り付け箇所の構造を事前に確認し、スタンション取り付けによってにかかる荷重を十分に支えられる強度のある部位に設置してください。
4-3. 親綱はたるみなく張ろう
親綱は、たるみなくピンと張りましょう。
親綱の張りが甘いと、いざという時の安全性が大きく損なわれるからです。
たるみのある親綱では、作業員が万が一墜落した際に、そのたるみの分だけ落下距離が伸びてしまい、落下の瞬間に親綱全体で衝撃を分散させることができません。
その結果、衝撃荷重(動的荷重)が一点に集中し、スタンションや親綱に過剰な引張荷重がかかり、破断や脱落を引き起こす恐れがあります。
このようなリスクを回避するため、親綱はピンと張るようにします。
緊張器(テンショナー)を活用するのも効果的です。
なお、親綱については「親綱は高所作業の命綱!設置・点検のルールとよくある疑問を解説」で詳しく解説していますので、そちらもご参照ください。
たるみが原因で親綱が役割を果たさなかった事例もある |
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過剰な力がかかることで切れてしまうリスク以前に、親綱にたるみがあったこと自体が直接的な原因となり、墜落を防げなかった事例もあります。親綱のたるみと、親綱に引っかけていた安全帯を合計した長さ(約2.5m)が、組み立て途中だった足場の高さを超えていたため、墜落防止装置として機能しなかったのです。 喩えるならば、2.5m落下した地点で宙吊りになるよう長さを調整したロープを腰に巻きつけた状態で、2mの高さから飛び降りたようなものです。 こういった根本的な原因による事故も起きる可能性があるということですので、十分に注意しましょう。 [参照]厚生労働省「安全帯使用時の墜落災害の状況(平成22年〜26年)」 |
4-4. 作業前点検を徹底しよう
スタンションや親綱の設置後は、毎作業前に点検を行い、固定状態や損傷の有無を確認しましょう。
たとえ適切な製品を正しく設置していても、いつの間にか生じていた固定具の緩みや設置角度の歪みを放置したり、劣化や損傷を見落としたりすれば、機能は失われてしまうからです。
実際に、東京都市大学工学部都市工学科 伊藤和也教授らの調査・分析により、親綱の劣化により起こった事故があったことが判明しています。
長期間雨風にさらされ摩耗していた親綱を使い続けた結果、作業員が墜落した際に摩耗箇所が切れてしまい、墜落を防げなかったという事故です。
[参照]「建設業における斜面工事中の墜落による労働災害の調査・分析」(労働安全衛生総合研究所特別研究報告 JNIOSH-SRR-No.46 (2016) )
これは、親綱の色褪せやほつれなどの変化を見逃さなければ防ぐことのできた事故だったと言えます。
作業開始前には必ず点検し、小さな異変を見逃さず、速やかに手直しや交換を行う。
ごく基本的なことですが、事故を未然に防ぐために大切なのは、結局これに尽きるのです。
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5. まとめ
本記事でお伝えした内容の要点を、以下にまとめました。
▼足場で使うスタンションとは、作業員が墜落・転落するリスクのある場所に設置する仮設の束柱(つかばしら)のこと。
▼スタンションには、安全性能の異なる2つの種別(=規格)があり、使用場所により使い分ける必要がある。
種別 | 使用場所 | 高さ要件 | 強度(取付部の脱落・緩み、たわみ、曲げ) |
---|---|---|---|
第1種 | 以下のような場所(=墜落の危険性が高い場所)に設ける防護工に使用する
| 床面から上桟取付部までの高さが95cm以上 | (第2種よりも)高 |
第2種 | 第1種に掲げるような場所以外の場所(=墜落の危険性が比較的低い場所)に設ける防護工に使用する | 床面から上桟取付部までの高さが90cm以上 | (第1種よりも)低 |
▼スタンションは、親綱支柱とは強度が異なるため、あくまで手すり取り付け用として使用すべき。
ただし、製品によっては親綱支柱としても使用できる設計になっており、その場合は親綱支柱を兼ねても可。
▼スタンションには用途に応じた複数の種類があり、固定方式にもバリエーションがある。
▼スタンションを安全に使用するために遵守すべき4つの基本事項は下記の通り。
- コーナーのスタンションに取り付ける親綱は1方向のみにする
- スタンションは堅固な箇所に固定する
- 親綱はたるみなく張る
- 作業前点検を徹底する
足場に使うスタンションについて、曖昧な部分が解消され、理解がクリアとなりましたでしょうか。
本記事が、スタンションに関するより深い理解を通じた足場の安全性向上に寄与しましたら幸いです。
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