【代表・浅野勝人 インタビュー連載①】「躯体サブコン」とは何か——多重下請けの構造を変える、建設業の新しいポジション

建設業の倒産は、2025年に2,021件と、12年ぶりに2,000件を超えました。*1

一方で、躯体工事職種の有効求人倍率は7倍を超えています。*2

仕事は溢れ、担い手は足りない。普通なら、実際に施工できる会社の立場は強くなるはずです。ところが現実には、現場を担う会社に利益が残りにくく、倒産は増え続けている。この不釣り合いを生んでいるのが、建設業の「多重下請け構造」です。

そして、この構造を変えるカギとして、いま提唱されはじめている言葉があります。

「躯体サブコン」。職人を自社で抱え、工種横断で施工管理を担う存在です。

まだ辞書にも業界紙にもない、この言葉は何を指すのか。本メディア「Grid」を運営するエルライングループの代表であり、鳶職人から身を起こしM&Aによって躯体の各工種を束ねてきた浅野勝人に、編集部が聞きました。連載の第1回は、多重下請けの現実と、「躯体サブコン」の定義に迫ります。

取材・構成・写真/Grid編集部

【プロフィール】

浅野 勝人(あさの まさと)

株式会社エルライン 代表取締役社長 CEO。鳶職人としてキャリアをスタートし、職人を抱える会社の設立から、資材の一式提供、資材のネット販売、リニューアル事業へと事業を拡大。現在はM&Aにより、とび・土工、鉄筋、鉄骨、塗装などの各社をグループ化し、躯体領域の一気通貫施工体制を構築している。

目次

ひどい時は「7次請け」。現場に届くまでに、消えていくもの

建設現場の仕事は、発注者からゼネコンへ、ゼネコンから専門工事会社へと流れていきます。問題は、その先です。受けた仕事を一社だけでは施工しきれず、再委託が重なって、実際に手を動かす職人の会社にたどり着くまでに、いくつもの会社を経由します。

「ゼネコンから直接受けている会社も、自社で職人を抱えているとは限らないんです。受けた仕事を自社では施工しきれないので、下の会社にお願いしていく。そういう構造だと思います」(浅野)

再委託の連鎖は、深いところでは7次に及ぶこともあると浅野は言います。経由する会社が増えれば、各段階で経費や利益が計上され、末端に届く頃には原資が細っている。そのしわ寄せが行き着く先を、浅野は「結局、職人本人の給料」だと言います。

危険と隣り合わせで、実際にものを作っている人のところで、報酬がいちばん薄くなる。多重下請け構造では、実際に価値をつくっている人ほど、取り分が少なくなるのです。景気の調整弁になりやすいのも、職人を抱えた会社です。

多重下請けによる「高コスト」構造

この構造で損をしているのは、職人だけではありません。施主から見れば、経由する会社が増えるほど価格は上がります。ゼネコンから見れば、管理すべき層が増え、資格や健康状態の確認など、工数がかさみます。

仕事が現場に届くまで(多重下請け構造)

発注者・ゼネコン
→
一次請け(協力会の会社)
→
二次・三次…深いときは7次まで
→
職人を抱える会社実際に工事をする

通るたびに原資が減り、施主の価格・ゼネコンの管理・職人の報酬にしわ寄せが出る

そして、業界全体で見れば、建設業の倒産は増え続け、2025年には2,021件と12年ぶりに2,000件を超えました。*1

その多くが、後継者がいない、職人がいない、赤字経営という中小の会社です。職人が足りず工事が思うように進まないと言われる時代に、職人を抱えた会社が市場から退場していく。

では、この構造はなぜ続いてきたのか。浅野が挙げるのは、ゼネコンごとの「協力会」の存在です。ゼネコンの発注は、商慣習として、地域ごとの協力会の会社に向かいます。枠外の会社に直接発注が来ることは、基本的にありません。協力会の会社だけで施工しきれない分は、その下の会社が担う。こうして再委託の連鎖が生まれます。

「昔からのしきたりで、飛び越えてはダメ、というのが建設業なんです」(浅野)

「躯体サブコン」とは何か

浅野がこの構造を変える手がかりとしたのは、同じ「サブコン」でも、電気設備の世界でした。

「電気設備のサブコンは、給料も待遇も結構上がっているんです。ゼネコンとのパワーバランスも、いまはゼネコンより上になっている。売上5,000億円規模のビッグプレイヤーがいて、そこが『やらない』と言ったら、やるところがない、という状況になるからです」(浅野)

一方、躯体の世界にビッグプレイヤーはいません。浅野によれば、鳶で売上100億円を超える会社は日本に5社ほど。小さな会社が乱立し、まとまらないまま、見積もりの叩き合いで単価を下げ合っている。交渉力を持ちようがない構図です。

だからこそ、と浅野は言います。躯体の領域にも、束ねる存在が要る。それが「躯体サブコン」です。定義を一言で語ってもらいました。

「職人を自社で抱えて、工種横断で施工管理できる。それが躯体サブコンです」(浅野)

ポイントは2つです。1つは「工種横断」。とび・土工、鉄筋、型枠、鉄骨といった躯体の各工種を、解体・新築・リニューアルにわたって一括で施工管理できること。もう1つが「職人を抱えて」。実は、職人を抱えずに工種横断で管理だけをしている会社は、すでに存在します。しかし、と浅野は続けます。

「ゼネコンの下で管理している、その下でまた管理している人がいる、というだけの話なんです」(浅野)

管理だけの会社が増えても、多重下請けの層が一枚増えるだけ。職人を自ら抱えているからこそ、多重下請けにならず、交渉のテーブルに着ける。ここが「躯体サブコン」の核心です。

なぜ、いまこの機能が必要なのか

建設業界を取り巻く数字は、待ったなしの状況を示しています。就業者に占める29歳以下の割合は約12%、55歳以上は約37%(2024年)。*3

世代交代は急務です。そして冒頭の通り、躯体工事職種の有効求人倍率は7倍を超えています。*2

近年のゼネコンの増益の一方で、中小の倒産は止まりません。この乖離の要因も、突き詰めれば交渉力です。ゼネコンはデベロッパーに対して「工事はいくらでもある」と交渉できる立場を得た。しかし、その下の中小には交渉力がない。

「価格の叩き合いをさせられてしまうんです」(浅野)

交渉力を束ね、その果実を現場の待遇に還元する存在がいなければ、人は入ってこず、会社は減り続け、やがて建設そのものが立ち行かなくなる。「躯体サブコン」は、業界の一社の戦略である以前に、構造の袋小路への処方箋なのです。

***

定義はわかった。では、なぜ過去に誰も実現できなかったのか。そして、なぜエルライングループにはできるのか。次回は、ゼネコンにすらできなかった理由と、鳶から始まった一気通貫体制の内側に迫ります。

※躯体一式工事とは、とび・土工、鉄筋、型枠、鉄骨等の躯体工種を一括受注する工事のこと。

(参考)

*1: 帝国データバンク|倒産集計 2025年報(1月〜12月)
*2: 厚生労働省|一般職業紹介状況(職業安定業務統計)
*3: 国土交通省|令和7年版 国土交通白書

【代表・浅野勝人 インタビュー連載】

第1回 「躯体サブコン」とは何か——多重下請けの構造を変える、建設業の新しいポジション(本記事)
第2回 エルラインが躯体工事のまとめ役「躯体サブコン」になれた理由
第3回 鳶職人から始まった代表・浅野勝人が目指す業界の姿

この記事を書いた人

水野源太
株式会社エルライン 社長室 1級電気工事施工管理技士

新卒で大手総合設備会社に施工管理として就職し、大型現場の再開発工事を経験。その後、建設人材派遣会社へと移り、複数現場で施工管理としての実務経験を積む。1級電気工事施工管理技士に合格したのを機に、同社の本社へと出向し、教育に携わる。2024年4月にエルライングループにジョインし、教育や採用、広報・デジタルマーケティング・新規事業開発などに従事。

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