職人を自社で抱え、工種横断で施工管理を担う存在。それが「躯体サブコン」です。前回はその定義と、多重下請け構造という背景を見てきました。
当然の疑問が浮かびます。そんなに合理的なポジションなら、なぜ誰もやってこなかったのか。資金力のあるゼネコンが、先にやってしまえばいいのではないか。
答えは意外なものでした。ゼネコンは、お金がいくらあっても、構造的にこれができないのです。連載第2回は、その理由と、鳶の一社から始まったエルライングループが一気通貫体制を築けた道筋に迫ります。
取材・構成・写真/Grid編集部

【プロフィール】
浅野 勝人(あさの まさと)
株式会社エルライン 代表取締役社長 CEO。鳶職人としてキャリアをスタートし、職人を抱える会社の設立から、資材の一式提供、資材のネット販売、リニューアル事業へと事業を拡大。現在はM&Aにより、とび・土工、鉄筋、鉄骨、塗装などの各社をグループ化し、躯体領域の一気通貫施工体制を構築している。
ゼネコンが同じことをできない理由
ゼネコンは各地に「協力会」を持っています。鳶が何社、鉄筋が何社、鉄骨が何社と、昔から発注してきた会社の集まりです。ゼネコンの側には、それを管理する人たちが大勢いて、管理に特化した体制ができあがっています。
では、そのゼネコンが各地で鳶を1社買収し、自社で施工まで手がけるとしたら、どうなるか。長年かけて築いてきた協力会との関係を考えれば、現実的ではない、と浅野は見ています。特定の1社だけをグループに入れれば既存の取引関係に影響が及びますし、かといって全国の全工種を買い切ることは不可能です。
ゼネコンは、資金の問題ではなく、構造の問題としてロールアップができない。上のレイヤーから取りに行くことは、成立しないのです。
横に並ぶ会社だから、まとめられる
ゼネコンが上から束ねられないのに対し、エルラインは協力会に並ぶ横の一社です。「一緒にやりましょう」ともう一社に声をかけても、既存の取引関係を壊すことにはなりません。
しかも、声をかける相手にはそれぞれの事情があります。後継者がいない。職人はいるが営業まで手が回らない。価格競争で利益が出ない。実際、建設業の倒産の多くはこうした中小で、2025年には2,021件と12年ぶりに2,000件を超えました。*1
業界には、鳶や鉄筋の組合といった横のつながりも全国にあります。ただ、受注はあくまで各社の競争であり、緩やかな連帯のままでは交渉力は生まれない、と浅野は言います。
だからM&Aで、グループという一つの資本にまとめる。手法としてはロールアップですが、実態は、同じ立場の会社と組んでグループをつくっていく仲間づくりです。
鳶から資材、ネット販売、リニューアルへ。事業拡大の順番
この構想は、机上から生まれたものではありません。エルラインの事業拡大の順番そのものが、伏線になっています。
始まりは、鳶の職人だけの会社。次に鳶の資材を自ら買い、在庫を持って一式で提供するようになります。資材を大量に仕入れる中で、当時はネット販売する会社がほとんどなく、調達には相当苦労したといいます。それなら自分たちで、と資材のネット販売を始め、これが第2の柱に育ちます。
さらにリニューアル事業へ。マンション大規模修繕などは請負金額の約3割が鳶の工事で、そのうち約50%が資材価格だと浅野は説明します。資材を自社で持っているから、価格で勝負できる、という読みです。
「鳶で全国に広げた後、そのセンターを使って販売を広げて、それを追いかけて、いまリニューアル事業を広げている、という順番です」
職人、資材、商社機能。「躯体サブコン」の構想は、M&Aを始めて少し経った頃、この積み上げの延長線上に着想されたものでした。
関東では、すでに一気通貫が始まっている
M&Aの対象は、鉄筋・型枠・鉄骨、そして解体・リニューアルに関する会社。職人が移動できる範囲には限りがあるため、地域ごとにグループを揃えていきます。組む会社の基準も明確です。
「職人がいて、技術がある会社と組んでいく。社員に職人がほとんどいなくて、管理側だけですよ、という会社はあまり買っていません」
職人を抱えることが「躯体サブコン」の核心である以上、当然の基準です。現時点でどこまでできるのかを聞きました。
「関東は、一気通貫ができます」
発注側のメリットは具体的です。一式で受ける際は監督もセットで出すため、ゼネコンは管理する人数を減らせる。施工管理の補助業務を担う人材の派遣も行う。2024年問題で管理側の人手が限られるゼネコンにとって、確認工数の削減はそのまま利益です。一式での請負も、関東で増え始めていると言います。
2024年問題とは
2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制(原則、月45時間・年360時間)が適用されました。これに伴う人手や工期のしわ寄せをめぐる課題の総称が「2024年問題」です。職人の勤務はもともと朝から夕方までの定時に収まることが多く、影響が出ているのは主に管理側です。現場の写真整理や翌日の準備などで労働時間が長くなりがちな、ゼネコンの監督・技術者の働き方が焦点になっています。浅野も「職人にはほとんど関係ない。ゼネコンの所長の話です」と話します。
電気設備に並ぶ「躯体のサブコン」へ
電気設備の世界には大手のサブコンがあり、ゼネコンと対等に交渉できます。躯体の世界には、それがいない。鳶で売上100億円を超える会社は日本に5社ほどしかない、と浅野は言います。
エルラインが目指すのは、この空白を埋める存在になることです。電気設備に名の知れたサブコンがあるのと同じように、「躯体サブコンといえばエルライン」と第一想起される存在になる。まだ業界にない言葉とポジションを、自らつくりにいく挑戦です。
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構造は見えました。最終回は「人」に迫ります。日給7,000円の鳶職人だった浅野は、なぜここまでの構想を描くに至ったのか。そして「躯体サブコン」が当たり前になったとき、職人の働き方はどう変わるのか。
(参考)
*1: 帝国データバンク|倒産集計 2025年報(1月〜12月)
【代表・浅野勝人 インタビュー連載】
第1回 「躯体サブコン」とは何か——多重下請けの構造を変える、建設業の新しいポジション
第2回 エルラインが躯体工事のまとめ役「躯体サブコン」になれた理由(本記事)
第3回 鳶職人から始まった代表・浅野勝人が目指す業界の姿

