「元請けになって、初めての建設プロジェクトが始動する。そこで、依頼主から作業計画書を作成してほしいと言われた。しかし今まで作業計画書を受け取っていただけのこともあり、具体的な作り方がわからなくて途方に暮れている……」
「作業計画書を作成する立場になったが、いつ、誰が、どんな時に書くのか、といった詳細がよくわからない。作成が大変なのは、今まで建設業界で働いて百も承知である。改めて基本を理解し、効率的に作成する方法を見出したい。」
このようにお考えの方が、当記事に辿り着いたのではないでしょうか。
作業計画書は、基本的に元請けの業者が作成する書類です。
危険な重機や作業の際に作成し、作業内容や作業員の情報などを記載します。特定の作業に関わる全員に計画を理解してもらい、工事を安全に進めるために重要な書類です。
下請けとして働いていれば、作業計画書は作成されたものを確認するだけで良いでしょう。しかし、自らが作成する立場であれば、工事過程や使用する重機に合わせて、丁寧に作成することが求められます。
とはいえ、作業計画書は1枚作れば終わりなのではなく、場所や機種、施工法が変わるたびに作成し直さなければなりません。丁寧さだけでなく、効率的に作ることも求められるのです。
そこで今回の記事では、作業計画書の基本から効率的に作るコツまで解説します。
本記事を読んでわかること |
・作業計画書の基本 ・作業計画書が必要な工事 ・作業計画書の作成方法 ・作業計画書のフォーマット ・作業計画書を効率的に作るコツ |
作業計画書は法令で定められていることはもちろん、従業員全員が安全に工事を進めるために必要不可欠です。
この記事で作業計画書の基本や効率的な作成方法について理解を深め、自社の業務に活かしてください。
1.作業計画書とは

作業計画書は、作業の計画を作業者全員に理解してもらうために作成するものであり、工事を安全かつ効率的に進める上で重要な書類です。
法令で作成が義務付けられており、作成せずに工事を行って書類送検された実例もあります。
参照:労働新聞社「重機ごと転落し死亡 作業計画の未策定で送検 横浜西労基署」
作業員の危険な行動は、正しい作業を知らないがゆえに起こると言われています。
作業計画書の作成は、作業員に安全な作業方法を知らせ、労働災害が発生する可能性を下げるために必要不可欠です。
なお、似ている書類に「作業手順書」がありますが、作業計画書とは別物です。
作業手順書は、元請が作成した作業計画書に基づいて、より現場で安全に作業を行うために必要な手順を記したものです。
そのため「作業手順書は書いたことがあるものの、作業計画書は作成したことがない」という方が多いでしょう。
そこで、実際に作業計画書の記入例をご紹介します。

上記は、フォークリフトで機械部品を運ぶ作業を行う際の、作業計画書です。
具体的な作業手順について詳細に記入するだけでなく、さまざまな立場の人が見て理解できる必要があるため、各関係労働者からのサインも必要です。
2.作業計画書は場所、機種、施工法が変わるなら毎回作成しなければならない

ここまで、作業計画書の基本についてお伝えしました。
作業計画書は、労働安全衛生規則によって、車両系建設機械を用いて作業を行うときには必ず策定することが義務付けられています。
労働安全衛生規則第155条
1.事業者は、車両系建設機械を用いて作業を行なうときは、あらかじめ、前条の規定による調査により知り得たところに適応する作業計画を定め、かつ、当該作業計画により作業を行なわなければならない。
2.前項の作業計画は、次の事項が示されているものでなければならない。
1.使用する車両系建設機械の種類及び能力
2.車両系機械の運行経路
3.車両系建設機械による作業の方法3.事業者は、第1項の作業計画を定めたときは、前項第2号及び第3号の事項について関係労働者に周知させなければならない。
例えば、クレーンであればクレーン、フォークリフトならフォークリフトと、使用する重機ごとに作業計画書を作成する必要があります。
同じ重機や工事内容であれば、同じ作業計画書を使い回すことが可能です。
しかし、作業内容や作業箇所、使用する重機が変わる場合は、毎回作成し直す必要があります。
3.作業計画書が必要な工事

労働安全衛生法では、以下の機械を使用する作業が、作業計画書作成の対象とされています。
使用する機械 | 詳細 |
車両系荷役運搬機械 (労働安全衛生規則151条の3) |
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車両系建設機械 (労働安全衛生規則第155条) |
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ジャッキ式つり上げ機械 (労働安全衛生規則194条の5) | 荷物のつり上げ、つり下げの作業を行うとき |
高所作業車 (労働安全衛生規則194条の9) | 高所作業車を用いた作業を行うとき (道路上の走行は除く) |
移動式クレーン (クレーン等安全規則66条の2) | 移動式クレーンを用いて作業を行うとき |
参照:e-GOV「労働安全衛生規則」
e-GOV「クレーン等安全規則」
また、以下のような危険を伴う作業も作業計画書の作成が義務付けられています。
作業計画書の作成が義務付けられている作業 |
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プロジェクト内で上記のような作業を伴う場合は、必ず作業計画書を作成し、作業内容を周知しましょう。
参照:建設業労働災害防止協会長野県支部「作業計画を策定し安全な作業を」
4.作業計画書の作成方法

ここまでで、作業計画書の概要やどのような工事の際に作業計画書が必要かを、理解できたことと思います。
ここからは、車両系荷役運搬機械であるフォークリフトの記入例をもとに、具体的な作成方法をご紹介します。
フォークリフトは、建設業界では主に建設資材の搬入・搬出といった用途で使用される車両です。さまざまな場面で使用される車両ですが、周辺作業者との接触や荷崩れなど、危険な労働災害が発生しやすい車両でもあります。
作業計画書で記載する項目は難しくありませんが、安全に工事が進められるように丁寧な作成が求められます。具体的な作成方法は、以下のとおりです。
作業計画書の作成方法(例:フォークリフト) |
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この章で、工事現場で頻繁に使用されるフォークリフトの作業計画書を理解しましょう。
4-1.フォーマットを入手する
まずは、工事内容や車両の種類に応じて、自治体から作業計画書のフォーマットを入手しましょう。
それぞれの自治体で縦型や横型など、形式は多少異なりますが、記載項目は基本的に同じです。
作業計画書のフォーマットの例 |
【北海道】一般社団法人北海道建設業協会 【長野県】建設業労働災害防止協会長野県支部 【宮崎県】厚生労働省宮崎労働局 |
作業計画書に法定様式はないため、必要な項目を網羅していれば、使用するフォーマットは自由です。
ワードやエクセルで記入様式が掲載されているので、ご自身の編集しやすい方法でご使用ください。
工事の発注者によっては、あらかじめフォーマットを提示される場合もあるため、先に指定がないか確認しておくと安心です。
フォーマットを入手したあとは、工事に関する内容や現場の状況をチェックし、作成に入りましょう。
4-2.作業の具体的内容を記載する

まずは、作業計画書の作成に関する基本情報と、作業の内容を記入します。
作業計画書に関する基本情報 |
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特に、作業の具体的内容については、フォークリフトをどのような手順で動かすのかを1動作ずつ詳しく文章で記入する必要があります。
荷物を積んで、目的地まで運ぶまでの一連の流れを頭に思い浮かべながら、丁寧に作成しましょう。
4-3.作業に関する情報(実施期間や作業時間)を記載する

次に、作業に関する以下の情報を記入します。
作業に関する情報 |
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フォークリフトは前方に荷積みを行うため、運転者の視界が悪くなる特性があります。そのため、具体的に荷物の内容を記入することで、作業内容に合った安全対策をとれます。
荷物の種類や形状、個数、一個あたりの重さなど、事前に細かく確認をした上で、作業計画書に記載しましょう。
4-4.作業指揮者と運転者の情報を記載する

人員配置を明確にするために、作業指揮者や運転者の情報を記入します。作業指揮者は、作業計画に従って工事が行われるかを監督する重要な役割を担っています。
最大荷重1トン以上のフォークリフトは、技能講習を修了した者でなければ運転できません。また、最大荷重1トン未満であっても、フォークリフト運転特別教育の修了が運転者には求められます。
2章でお伝えしたとおり、作業計画書の作成は、場所や内容、使用する機械が変わるたびに作成しなくてはなりません。そのため、いつも作業員の情報を確認しに行っていては、事務作業に多大な時間がかかってしまいます、
「5.作業計画書を効率的に作るコツ」でもお伝えしますが、作業員の氏名や免許情報などは、まとめていつでも確認できるようにしておくことがおすすめです。
4-5.使用するフォークリフトの機種情報を記載する

次に、使用するフォークリフトの機種情報を記載します。使用する車両の事前点検を丁寧に行うことで、思わぬトラブルを防げます。
車両の基本的な状況だけでなく、これまでの点検歴も確認しましょう。また、自身の目でも車両に不備がないかを、しっかりと確認しておきましょう。
4-6.作業場所の情報を記載する

作業場所の情報では、場所の広さや地形、路面状況を記入します。事前に作業場所を実際に確認し、作業計画書に反映させましょう。
誘導者の合図に関しては、記載をせずとも手合図・旗・笛など、どのような手段を使うのか運転手と認識を合わせておくと安心です。
作業場所の状況確認を誘導者と一緒にできると、より安全性が高まります。
4-7.作業図を記載する

次に、作業計画に沿った作業図を作成します。作業図では、以下の内容を明確にしてください。
作業図で明確にする内容 |
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図は、手書きや写真を貼り付けるといった方法でも可能です。
しかし、建設業に特化したフリーイラストを使って、パソコン上で完成させることができれば、業務効率化が図れます。詳細は、「6-3.イラストを活用する」で解説します。
4-8.留意事項と確認を記載する

実際の作業に入る際には、運転者が留意事項をすべて確認し、チェックをする必要があります。作業の流れや内容を十分に理解した上で、作業を開始できるようにしましょう。
4-9.関係者の印をもらう

最後に、作業計画書の内容理解の必要がある、関係者全員の押印(もしくは自筆署名)をもらう必要があります。
作業計画書は、作成するだけでなく関係者全員に内容を知らせ、理解してもらうことに意味があります。
全員に、いつどこでどのような作業を行うのか周知し、安全に工事を進められるようにしましょう。
5.作業計画書を作ったら原則5年間は保管しよう

作業計画書を作ったら、営業所ごとに、原則5年間は保管しましょう。
ただし、発注者と締結した新築住宅を新築する建設工事に係るものは、原則10年保存となります。
出典:関東地方整備局 建設工事の適正な施工を確保するための建設業法 (令和5.1版)
仮に書類を紛失して保管できないと、建設業法違反として、10万円以下の過料が科せられる可能性があります。
建設業法第55条
次の各号のいずれかに該当する者は、十万円以下の過料に処する。
五 第四十条の三の規定に違反して、帳簿を備えず、帳簿に記載せず、若しくは帳簿に虚偽の記載をし、又は帳簿若しくは図書を保存しなかつた者
作業計画書は安全書類の一つであり、作成と保管が義務付けられています。
なくさないように保管しておきましょう。
6.作業計画書を効率的に作るコツ

作業計画書で記載が必要な項目について、ご理解いただけたことと思います。
一つひとつの項目を確認した上でお気づきかと思いますが、作業計画書の作成は手間も時間もかかりとても大変です。この章は、作業計画書を効率的に作成するコツを3つお伝えします。
作業計画書を効率的に作成する3つのコツ |
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一つひとつは些細なことですが、毎日の事務作業時間を減らすために重要ですので、ぜひご確認ください。
6-1.エクセルで自分流のフォーマットを作る
作業計画書の作成を短縮するには、エクセルに自分流のフォーマットを作っておくことがおすすめです。
フォーマットを作成しておけば「少し作業内容が変わるだけ」「作業場所が変わるだけ」といった場合に、1から作り直すことなく作業計画書を作成できます。
既存のテンプレートをもとに、自社でよく扱っている重機の基本情報を入力しておいたり、作業指揮者の名前を書いておいたりしたものをエクセルのタブに複数保存しておくと、作業が楽になります。
インターネット上にフォーマットはありますが、毎回ダウンロードするのも手間がかかるため、自社にあったフォーマットをエクセルに作成しておくと良いでしょう。
また、作業計画書の不備を指摘された場合は、修正した点をまとめておくと、今後にも役立ちます。
6-2.よく使う関係者の情報は印刷してまとめる
よく使う関係者の情報は、名前の漢字や所有資格などの細かな情報も含めてまとめておきましょう。作業計画書を作成する際は、以下の関係者情報が毎回必要になるからです。
作業計画書で必要な関係者情報 |
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使用する車両によっては、以下のような項目の情報が必要です。
使用する車両によっては必要な項目 |
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毎回このような情報を確認していると、事務作業に必要な時間が大幅に増えてしまいます。
一度使った情報は、印刷をしておいたり、データとしてエクセルやシステム上にまとめておいたりするとよいでしょう。
6-3.イラストを活用する
作業計画書には、実際の作業図を記入する必要があります。この作業図において、印刷したあとに手書きや写真を貼り付けるというやり方は、無駄な残業につながってしまいます。
作業図の書き方は、手書きや写真を貼り付けるといった方法もありますが、イラストの活用がおすすめです。
建設業支援サイト「トラスト」を活用すれば、建設関連のフリー素材を簡単にワードやエクセルに貼り付けられます。お好きなイラストをコピーし、作業図上に貼り付けるだけです。

イラストを使えば、絵が苦手な方だとしても、誰にでも理解してもらえる作業図が完成します。
時間をかけずに高品質な作業図を作成するために、イラストを活用しましょう。
7.作業計画書は工事が増えるほど大変になる!ツールを使って効率化しよう

ここまでお伝えしてきたとおり、作業計画書は時間や場所、施工法が変わるごとに毎回作成する必要があります。
特定のサイトを常に使っていれば、1回登録するだけで良いですが、元請指定により異なるサイトや指定書式を使用することもあります。
そのため、情報を一元管理し、異なるサイトや指定書式でもズレがないようにすることが求められます。
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8.まとめ
作業計画書は、作業者の安全を確保し、効率的に工事を行うために必要な書類です。しかし、使用する重機や工事内容に伴って、何度も作成しなくてはいけないため、時間をかけていると残業につながってしまいます。
作業計画書の基本の作成方法を理解したあとは、どうしたら効率化できるかを考えて、一つひとつ実践していきましょう。
最後に、この記事の内容をまとめます。
▼作業計画書は、安全な施工を行う上で重要とされている計画書
▼作業計画書は場所、機種、施工法が変わるなら毎回作成しなければならない
▼作業計画書が必要な機械
・車両系荷役運搬機械
・車両系建設機械
・ジャッキ式つり上げ機械
・高所作業車
・移動式クレーン
その他危険を伴う作業でも作業計画書が必要
▼作業計画書の作成方法(例:フォークリフト)
1.フォーマットを入手
2.作業の具体的内容を記載する
3.作業に関する情報(実施期間や作業時間)を記載する
4.作業指揮者と運転者の情報を記載する
5.使用するフォークリフトの機種情報を記載する
6.作業場所の情報を記載する
7.作業図を記載する
8.留意事項と確認を記載する
9.関係者の印をもらう
▼作業計画書を効率的に作るコツ
・エクセルで自分流のフォーマットを作る
・よく使う関係者の情報を印刷してまとめる
・イラストを活用する
作業計画書は、労働災害を起こさないために必要な書類です。この記事が、作業計画書を作成する企業さまのお役に立てば幸いです。
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