「建設DXの事例には、どんなものがあるのだろう?」
「自社への導入の参考にするため、建設DXの事例が知りたい!」
そんな疑問やニーズをお持ちではありませんか?
建設DXといっても、その取り組みの選択肢は多様ですから、「一体ほかの企業はどんなアプローチを採用しているのだろう」と疑問に思う方は多いはず。
また、この記事にたどり着いた方のなかには、「実際に取り組んで、上手くいったのか?」と、建設DXの効果に疑問があって、成功事例を検索された場合もあるでしょう。
そこで本記事では、実際に建設DXを導入し、自社の働き方・働く環境の改善や、課題解決に成功した事例を解説します。
具体的には、「一般業務」の改革事例と「より専門的な課題」の解決事例に分けた、下記の11選の成功事例を挙げ、ご紹介していきます。
一般業務の効率化・省人化に成功した事例 | |
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平山建設株式会社 | 業務効率化と働き方改革に成功 |
株式会社後藤組 | 業務効率化と若手社員の働きやすい環境づくりに成功 |
専門的な現場の課題を解決した事例 | |
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清水建設株式会社 | 配筋検査の効率化と品質向上に成功 |
鹿島建設株式会社 | 現場管理の効率化と生産性向上に成功 |
戸田建設株式会社 | 橋梁耐震補強工事の効率化と精度向上に成功 |
五洋建設株式会社 | 山岳トンネル工事における帳票作成の効率化に成功 |
株式会社鴻池組 | 地中埋設管の損傷リスク軽減に成功 |
株式会社熊谷組 | 山岳トンネル工事における安全性向上と作業効率化に成功 |
株式会社竹中土木 | 構造物掘削施工の効率化と安全性の向上に成功 |
三井住友建設株式会社 | コンクリート締固め作業の品質向上と効率化に成功 |
前田建設工業株式会社 | 安全管理の高度化と業務改善に成功 |
いずれの事例も、建設DXを導入する前、取り組みの内容、導入した後の効果といった流れを意識した説明を行なっています。
本記事を読んでいただければ、「各企業が課題に対しどうアプローチしたのか」というプロセスがわかります。適切なアプローチの方向性も掴めるでしょう。
ぜひ最後まで読んでいただき、自社の課題解決のヒントを得るきっかけにお役立てください。
1. 建設DXで一般業務の効率化・省人化に成功した事例
建設業界では近年、「業務効率化」や「人手不足の解消」といった長年の課題を解消すべく、建設DXの導入を進める企業が増加しています。
取り組む課題は企業によってさまざまです。働き方・働く環境をより良くするために、多様なアプローチが考案・実施されています。
では、具体的にどのようなアプローチで建設DXを進め、課題の改善・解決に取り組んでいるのか。
まずは一般業務の在り方に改革をもたらした事例からご紹介していきましょう。
1-1. 平山建設株式会社|業務効率化と働き方改革に成功
出典:平山建設株式会社
平山建設は建設DXを取り入れて、業務効率化と働き方改革に成功しました。具体的に、導入前の従来の状況と、導入後の効果を見ていきましょう。
まず、従来の様子です。
平山建設では、以前は紙の資料や手書きの記録、電話による連絡に頼っており、下記の課題が生じていました。
勤怠管理や残業時間集計に多くの時間を要していた 稟議書の決裁に1週間以上かかっていた 実行予算書の承認に最大1ヶ月を要していた |
業務が非効率で時間がかかり、迅速な意思決定が難しい状況だったのです。
そこで、次の建設DXを取り入れました。
建設DXの例 |
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Google Workspaceを活用したデジタル化とクラウド化の推進 |
具体的には、下記の内容に取り組みました。
Googleフォーム、スプレッドシートによる入力システムの導入 Googleチャットを主要コミュニケーションツールとして採用 Googleドライブを用いた書類・写真の管理 Googleサイトを使用した現場ポータルサイトの構築 |
導入の結果は、下記の通りです。
<Googleフォーム、スプレッドシートによる入力システムの導入> データ入力の効率化と自動集計が可能になった 勤怠管理や残業時間集計の作業時間が大幅に短縮された |
<Googleチャットを主要コミュニケーションツールとして採用> リアルタイムでのコミュニケーションが可能になった 情報共有の速度が向上した 稟議書の決裁時間や実行予算書の承認期間が短縮された |
<Googleドライブを用いた書類・写真の管理> クラウド上で文書を一元管理できるようになった 紙の資料と手書き記録の80%以上をデジタル化できた 必要な情報へのアクセスが容易になり、業務効率が向上した |
<Googleサイトを使用した現場ポータルサイトの構築> 現場情報の共有と更新が迅速に行えるようになった コミュニケーションにかかる時間を90%以上削減できた 全社的な情報共有が促進され、業務の透明性が向上した |
業務プロセス全体のデジタル化と効率化が進み、結果として、時間外労働の削減や意思決定の迅速化につながりました。
Google Workspaceの各ツールが連携することで、円滑な情報共有と協働作業が可能となり、全体的な生産性向上を実現したのです。
1-2. 株式会社後藤組|業務効率化と若手社員の働きやすい環境づくりに成功
出典:株式会社後藤組
後藤組は建設DXを取り入れて、業務効率化と若手社員の働きやすい環境づくりに成功しました。具体的に、導入前の従来の状況と、導入後の効果を見ていきましょう。
まず、従来の様子です。
後藤組では、以下の課題が生じていました。
アナログのプロセスが主流で、業務改善と生産性向上が必要だった 若手社員にとって働きやすい環境づくりが求められていた 紙の書類が多く、非効率な業務プロセスだった |
建設現場の生産性向上と若手社員の定着が課題となっていたのです。
そこで、次の建設DXを取り入れました。
建設DXの例 |
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「全員DX」をテーマにした業務アプリ構築クラウドサービス「kintone」の導入 |
具体的には、下記の内容に取り組みました。
現場社員自身によるアプリ構築 年に一度の社内DX大会の開催 社内資格制度の導入・経理システム、勤怠システムの内製化 AIを使った資材管理システムの構築 顧客・リクルート情報管理の一元化 |
導入の結果は、下記の通りです。
<現場社員自身によるアプリ構築> より現場に即した業務効率化が促進された 社員のDXに対する理解が深まった 各事業部の活動や進捗状況がほかの事業部からも見えるようになった 組織全体の透明性が高まり、知識やノウハウの共有がしやすくなった |
<ペーパーレス化の推進> 書類の利用が約60%削減された 業務の生産性が向上した |
<その他の効果> 経理システム、勤怠システムの内製化により業務効率が向上した AIを使った資材管理システムにより効率化が進んだ 顧客・リクルート情報管理の一元化により時間効率が向上した 1人あたり20%以上の残業時間削減につながった |
「全員DX」の取り組みにより、業務プロセス全体のデジタル化と効率化が進み、生産性の向上と若手社員の働きやすい環境づくりを実現しました。
さらに、社外から表彰を受けるなど高い評価の影響で、企業価値の向上にもつながったのです。
2. 建設DXでより専門的な現場の課題を解決した事例
建設DXの波は、一般業務の改革だけではなく、建設現場そのものにもおよんでいます。
現場特有の複雑な課題に対しても、デジタル技術を駆使し、解決策が生み出されているのです。
続いては、より専門的な現場の課題に焦点を当て、建設DXに取り組んだ事例をご紹介します。
デジタル技術がどのようにして現場の生産性向上や安全性確保に貢献しているのか、具体例を通して見ていきましょう。
2-1. 清水建設株式会社|配筋検査の効率化と品質向上に成功
出典:清水建設株式会社
清水建設は建設DXを取り入れて、配筋検査の効率化と品質向上に成功しました。具体的に、導入前の従来の状況と、導入後の効果を見ていきましょう。
まず、従来の様子です。
清水建設では、以下の課題が生じていました。
配筋検査に複数の人員を要し、多くの時間がかかっていた 検査帳票作成や検査用具の準備に時間を要していた 検査の精度維持と省人化・省力化の両立が難しかった |
検査の精度を保ちながら、作業の効率化を図ることが長年の課題だったのです。
そこで、次の建設DXを取り入れました。
建設DXの例 |
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3眼カメラ配筋検査システム「写らく」の開発と導入 |
具体的には、下記の機能を持つシステムを開発し、現場に導入しました。
3つのカメラとタブレットPC、LED照明を使用 簡単な操作で上下2段の縦・横方向配筋、合計4段の同時計測が可能 支障物を自動除去し、3次元位置情報を考慮した計測が可能 検査帳票の自動作成と電子黒板表示機能 重ね継手の長さの算定機能 改ざん検知機能・遠隔臨場との連携機能 |
導入の結果は、下記の通りです。
<生産性向上・省人化効果> 配筋検査にかかる時間を75%程度削減した 従来3名で行なっていた作業を1名で対応可能になった 遠隔臨場との組み合わせで、監督員の複数現場管理が効率化した |
<安全性向上効果> 現場での作業時間を85%削減した 非接触で安全な足場から検査が可能になった 検尺ロッドが落下するリスクを低減した 遠隔臨場との組み合わせで、監督員の移動による交通事故リスクをなくした |
<品質向上効果>規格値を判定可能な精度を実現した 国土交通省のプロジェクトでA(社会実装の実現性が高い)評価を獲得した |
「写らく」の導入により、配筋検査の効率化と品質向上を同時に実現し、作業の安全性も大幅に向上させました。さらに、遠隔臨場との連携により、現場管理の効率化にもつながったのです。
2-2. 鹿島建設株式会社|現場管理の効率化と生産性向上に成功
出典:鹿島建設株式会社
鹿島建設は建設DXを取り入れて、現場管理の効率化と生産性向上に成功しました。具体的に、導入前の従来の状況と、導入後の効果を見ていきましょう。
まず、従来の様子です。
鹿島建設では、以下の課題が生じていました。
各種「見える化」システムが個別に運用され、効率的に活用されていなかった 現場状況の把握に多くの時間と人員を要していた 各システムで取得したデータが分散して保管され、有効活用されていなかった |
現場の状況をリアルタイムに把握し、迅速な意思決定を行うことが課題だったのです。
そこで、次の建設DXを取り入れました。
建設DXの例 |
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現場見える化統合管理システム「Field Browser®」の開発と導入 |
具体的には、下記の機能を持つシステムを開発し、現場に導入しました。
人、モノ、建設機械の位置や稼働状況をリアルタイムに表示 気象、交通情報などの環境情報とあわせて一元管理 地図上に現場図面を重ね合わせ、各種情報を可視化 定点カメラ映像と位置情報のリンク 人物のリアルタイムバイタル情報表示 建設機械、車両の稼働率集計機能 72時間先までの気象予報表示 |
導入の結果は、下記の通りです。
<現場管理の効率化> 事務所や支店からリアルタイムで現場の状況を確認できるようになった 現場の状況に応じて、素早く適切な指示を出せるようになった 現地に行く回数が減り、現場管理の時間と労力を大幅に削減できた 遠隔でのパトロールや立会いが可能となり、移動時間を節約できた |
<作業計画の最適化> 作業員の動きや建設機械の使用状況を詳しく把握できるようになった データを基に、次の工事での人員配置や機械の手配を効率的に行えるようになった 天気予報を活用し、雨天時の作業変更などを事前に計画できるようになった |
<安全性の向上> 作業員の体調変化をリアルタイムで把握し、早めの休憩や交代を促せるようになった 悪天候の予報を受けて、事前に安全対策を講じられるようになった |
<生産性の向上> 作業員の無駄な移動や待機時間が減り、作業効率が上がった 蓄積されたデータを分析し、より効率的な作業計画を立てられるようになった |
「Field Browser®」という統合管理システムを導入することで、生産性向上と働き方改革を同時に実現しました。
建設現場の「見える化」を進め、問題・課題を「リアルタイムに把握」して、「タイムリーに解決」することができるようになったのです。
2-3. 戸田建設株式会社|橋梁耐震補強工事の効率化と精度向上に成功
出典:戸田建設株式会社
戸田建設は建設DXを取り入れて、橋梁耐震補強工事の効率化と精度向上に成功しました。具体的に、導入前の従来の状況と、導入後の効果を見ていきましょう。
まず、従来の様子です。
戸田建設では、以下の課題が生じていました。
RC巻立て工では、現況形状の把握に時間と労力がかかっていた 足場組立後の計測では、資材調達期間が短くなっていた 落橋防止システム工では、手計測やトレースによる計測に時間がかかり、精度も低かった |
これらの課題は、工事の進行を妨げる要因となっていました。
そこで、解決策として、次の建設DXを取り入れたのです。
建設DXの例 |
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1)RC巻立て工:3Dレーザースキャナーによる点群測量データの活用2)落橋防止システム工:デジカメ3次元計測システム(VFORM)の活用 |
具体的には、下記の内容に取り組みました。
<RC巻立て工> ・着工前に点群測量を実施し、現況形状を3次元データで把握 3次元データを2次元の立面図と断面図に変換して活用 <落橋防止システム工> VFORMを使用してアンカー位置を高精度で計測 計測データを基に工場で加工した木製実寸パネルで精度確認 |
導入の結果は、下記の通りです。
<作業効率の向上> RC巻立て工によって、資材調達の余裕期間が確保できた スムーズに工事を進められるようになった 作業所職員の労力が98%削減され、他の業務に集中できるようになった 3次元での仮設検討や模型作成が可能になり、より詳細な計画が立てられるようになった |
<計画精度の向上> 落橋防止システム工によって計測時間とデータ処理時間が86%短縮された 作業効率が大幅に向上した 高精度の計測により、アンカー干渉による手戻りや取り付け不能がゼロになった |
このように、ICTの活用により、橋梁耐震補強工事の効率化と精度向上を同時に実現しました。
特に、現況形状の早期把握や高精度計測によって、作業の手戻りを減らし、工期短縮にもつながっています。
2-4. 五洋建設株式会社|山岳トンネル工事における帳票作成の効率化に成功
出典:五洋建設株式会社
五洋建設は建設DXを取り入れて、山岳トンネル工事における帳票作成の効率化に成功しました。具体的に、導入前の従来の状況と、導入後の効果を見ていきましょう。
まず、従来の様子です。
五洋建設では、以下の課題が生じていました。
切羽の観察記録や点検記録の作成に長時間を要していた カメラで撮影した写真と野帳のスケッチを事務所で転記・印刷する必要があった 帳票作成のために現場と事務所を行き来する時間のロスがあった |
これらの課題は、作業効率の低下と労働時間の増加を引き起こしていました。
そこで、次の建設DXを取り入れたのです。
建設DXの例 |
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タブレット(iPad)を用いた2つの帳票作成アプリの開発 |
具体的には、下記の内容に取り組みました。
・「切羽観察記録」と「切羽の点検記録」をタブレットで作成できるアプリを開発 iPadのカメラ機能を活用した切羽写真の撮影とスケッチ作成 オンラインストレージサービスを利用した関係者との記録共有 電子認証機能の実装 |
導入の結果は、下記の通りです。
<生産性の向上> 現場での直接入力により、事務所と現場の往復が減り、作業効率が大幅に向上した 写真撮影とスケッチ作成の簡易化により、帳票作成時間が短縮された オンラインでの情報共有により、関係者間のコミュニケーションが迅速化した 電子認証の導入で、承認プロセスが効率化され、作業の流れがスムーズになった |
<データ活用の促進> デジタル化された帳票データを蓄積し、工事の進捗状況や傾向を分析できるようになった 分析結果を基に、より効率的な作業計画を立案できるようになった |
このように、タブレットを活用した帳票作成アプリの導入により、山岳トンネル工事における作業プロセス全体の効率化を実現しました。
特に、現場での直接入力と即時共有が可能になったことで、作業時間の短縮と情報伝達の迅速化が図られ、現場作業に集中できる環境が整ったのです。
さらに、デジタル化されたデータの蓄積と分析により、工事全体の最適化にもつながっています。これは単なる帳票作成の効率化だけでなく、工事全体の生産性向上と品質管理の強化にも役立っています。
2-5. 株式会社鴻池組|地中埋設管の損傷リスク軽減に成功
出典:株式会社鴻池組
鴻池組は建設DXを取り入れて、地中埋設管の損傷リスク軽減に成功しました。具体的に、導入前の従来の状況と、導入後の効果を見ていきましょう。
まず、従来の様子です。
鴻池組では、以下の課題が生じていました。
法面保護工施工箇所に供用中の地中埋設管があり、鉄筋挿入工での損傷リスクが高かった 地中埋設管の正確な位置が不明で、図面との整合性が確認できなかった 埋設管と鉄筋挿入ボルトの位置関係を関係者間で共有することが難しかった |
上記のように、工事の安全性と効率性を脅かす要因があったのです。
そこで、次の建設DXを取り入れました。
建設DXの例 |
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3次元化(BIM/CIM)による地中埋設管の可視化 |
具体的には、下記の内容に取り組みました。
鉛直ボーリングによる埋設管位置の探査 探査結果に基づく埋設管の3次元モデル化 3次元モデルを用いた鉄筋挿入ボルトの配置計画 可視化された情報を用いた関係者との協議や周知 |
導入の結果は、下記の通りです。
<工事品質の向上> 鉄筋挿入ボルトと埋設管の離隔や位置関係が明確になり、精度の高い施工が可能になった 埋設管の正確な位置が把握でき、損傷リスクが大幅に低減した 発注者から、安全性の確認と図面整合性の検証に対して高い評価を得られた |
<安全性の向上> 3次元モデルにより、さまざまな角度から問題点(リスク)を抽出できるようになった 作業手順周知会で3次元モデルを活用し、作業員の理解度が向上した 埋設管の損傷リスクが低減し、重大な二次被害(水漏れ、ガス漏れ、爆発など)のリスクも減った |
<コミュニケーションの改善> 発注者との協議や打ち合わせがスムーズになり、理解が深まった 協力会社との施工検討会で3次元モデルを活用し、より具体的な検討が可能になった |
<業務効率の向上> 3次元モデルによる「見える化」で、関係者間の情報共有が迅速かつ正確になった 現場での確認作業や説明時間が短縮され、全体的な業務効率が向上した |
3次元化(BIM/CIM)の導入により、地中埋設管の損傷リスクを大幅に軽減しただけでなく、工事全体の安全性と効率性を向上させました。
特に、目に見えない地中の状況を可視化したことで、関係者全員の理解が深まり、より安全で確実な施工が可能になったのです。
2-6. 株式会社熊谷組|山岳トンネル工事における安全性向上と作業効率化に成功
出典: 株式会社熊谷組
熊谷組は建設DXを取り入れて、山岳トンネル工事における安全性向上と作業効率化に成功しました。具体的に、導入前の従来の状況と、導入後の効果を見ていきましょう。
まず、従来の様子です。
熊谷組では、以下の課題が生じていました。
爆薬装填作業や吹付コンクリート作業時に、作業員が長時間切羽に近接する必要があった 切羽直下の肌落ち(掘削面からの岩石の落下)や切羽崩壊による災害リスクが高かった 作業環境が厳しく、作業員の負担が大きかった |
作業員の安全を脅かすだけでなく、工事の効率性も低下させていたのです。
そこで、次の建設DXを取り入れました。
建設DXの例 |
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1)爆薬の遠隔装填システム2)吹付けコンクリートの遠隔操作システム |
具体的には、下記の内容に取り組みました。
<爆薬の遠隔装填システム> 遠隔装填装置、装填ホース、装填パイプ、リモコンボックスを導入 爆薬とアンコ(込め物)を空気圧で連続装填するシステムを構築 <吹付けコンクリートの遠隔操作システム> 高画質映像を低遅延で無線伝送する小型移動操作室を設置 吹付けノズルに前後・左右の回転制御機能を追加 カメラにエアシャワーリングを装備し、レンズの汚れを防止 |
導入の結果は、下記の通りです。
<安全性の向上> 切羽から1.5m以上離れた位置から装薬作業が可能になり、崩落災害リスクが大幅に低減した 吹付け作業中のオペレータの安全が確保された 切羽近接作業がなくなり、作業環境が改善された |
<作業効率の向上> 爆薬装填時間が45%短縮された(人力26.5秒/孔 → 機械14.7秒/孔に) 掘削サイクルが短縮され、全体的な工期短縮につながった 吹付けノズルの自動制御により、オペレータの操作負担が軽減された |
<品質の向上> 遠隔操作による精密な作業が可能になり、爆薬装填や吹付けの品質が向上した カメラのエアシャワーリングにより、常に清明な視界が確保され、作業精度が向上した |
<コスト削減の可能性> 作業時間の短縮により、人件費や機械稼働時間の削減が期待できる 安全性向上により、事故リスクとそれに伴う損失の低減が見込める |
遠隔操作技術の導入により、山岳トンネル工事の安全性が大幅に向上させることができたのです。
同時に作業効率も改善されました。
特に、作業員が危険な場所に立ち入る必要がなくなったことは、より安全な現場環境へと多く前進させることにつながるでしょう。
2-7. 株式会社竹中土木|構造物掘削施工の効率化と安全性の向上に成功
出典:株式会社竹中土木
竹中土木は建設DXを取り入れて、構造物掘削施工の効率化と安全性の向上に成功しました。具体的に、導入前の従来の状況と、導入後の効果を見ていきましょう。
まず、従来の様子です。
竹中土木では、以下の課題が生じていました。
・2次元図面から計算して掘削ラインの位置を出す必要があった・現場で丁張りを設置する手間がかかっていた・油圧ショベルの操縦者と手元作業員の連携作業が必要だった・測量や出来形確認に2~3名の人員が必要だった |
作業効率の悪さと、安全性のリスクがあったのです。
そこで、次の建設DXを取り入れました。
建設DXの例 |
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ICT建機を用いたマシンガイダンス施工システム |
具体的には、下記の内容に取り組みました。
UAVによる起工測量の実施 3次元設計データの作成とICT建機への入力 GNSS測量機器の併用による掘削法肩の位置出しと出来形確認 |
導入の結果は、下記の通りです。
<生産性の向上> 丁張り設置が不要になり、準備から施工までの手順が大幅に短縮された 測量および出来形確認作業が省人化され、1人で作業できるようになった ICT建機のモニターで施工状況を確認しながら掘削作業ができるようになった |
<安全性の向上> 手元作業員が不要になり、重機と作業員の近接作業がなくなった オペレータがモニターで確認しながら作業できるため、周囲の安全確認が容易になった |
<品質の向上> 3次元設計データに基づく施工により、高精度な掘削が可能になった GNSS測量機器の活用で、迅速かつ正確な位置出しと出来形確認ができるようになった |
<作業環境の改善> 重機周辺での作業が減少し、作業員の負担が軽減された デジタル技術の活用により、若手作業員にとって魅力的な現場環境が整備された |
ICT建機とGNSS測量機器(衛星測位システムを利用した高精度な位置測定装置)の導入により、従来の人力に頼る作業が大幅に削減されたことで、作業の質と速度が向上し、同時に安全性も高まりました。
建設DXにより、構造物掘削施工の効率化と安全性向上を同時に実現したのです。
2-8. 三井住友建設株式会社|コンクリート締固め作業の品質向上と効率化に成功
出典:三井住友建設株式会社
三井住友建設は建設DXを取り入れて、コンクリート締固め作業の品質向上と効率化に成功しました。具体的に、導入前の従来の状況と、導入後の効果を見ていきましょう。
まず、従来の様子です。
三井住友建設では、以下の課題が生じていました。
締固め管理において、作業員と施工管理者の目視による判断に頼っていた コンクリート表面からの判断のため、内部の充填状況がわかりにくかった 作業員の経験や感覚に依存する部分が大きく、品質にばらつきが生じる可能性があった |
これらの課題は、コンクリート構造物の品質保証を難しくし、作業の効率化を妨げる要因となっていたため、次の建設DXを取り入れたのです。
建設DXの例 |
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ARコンクリート締固め管理システム |
具体的には、下記の内容に取り組みました。
iPadを使用したAR技術による締固め情報の可視化 3Dモデルを現実空間に重ね合わせて表示 締固め範囲、時間、完了状況をリアルタイムで表示 鉛直方向の打重ね管理機能の実装 |
導入の結果は、下記の通りです。
<品質の向上> 締固め範囲と時間を定量的に管理できるようになった コンクリート全体を確実に締め固められるようになった 鉛直方向の打重ね管理が可能になり、層間の締固めも適切に行えるようになった 目に見えない内部の締固め状況も把握できるようになり、品質の均一性が向上した |
<作業効率の向上> AR技術により締固め情報が可視化され、作業の進捗状況が一目でわかるようになった 「締固め漏れ」や「過剰締固め」を防ぐことができ、作業の無駄が減少した 経験の浅い作業員でも適切な締固めが行えるようになり、作業の効率が向上した |
<技能の標準化> 作業者の力量に依存しない施工が可能になり、品質のばらつきが減少した AR技術を活用することで、ベテランの技能を可視化し、若手作業員への技術伝承が容易になった |
<管理業務の効率化> 締固め状況をデジタルデータとして記録できるようになり、品質管理の効率化につながった リアルタイムでの進捗確認が可能になり、施工管理者の負担が軽減された |
ARコンクリート締固め管理システムの導入により、これまで作業員の経験や勘に依存していた工程を、具体的な数値や客観的な基準で評価・管理できるようになりました。
結果として、コンクリート構造物の品質を高い精度で制御し、向上させることにつながったのです。
2-9. 前田建設工業株式会社|安全管理の高度化と業務改善に成功
出典:前田建設工業株式会社
前田建設工業は建設DXを取り入れて、安全管理の高度化と業務改善に成功しました。具体的に、導入前の従来の状況と、導入後の効果を見ていきましょう。
まず、従来の様子です。
前田建設工業では、以下の課題が生じていました。
KY活動(危険予知活動)の安全指示事項が熟練者の経験に基づき、マンネリ化しがちだった 作業員への指示が口頭中心で、特に未経験者が危険を十分にイメージできなかった 具体的な安全行動に移せないケースが見受けられた |
KY活動やヒヤリハット活動の効果的な実施を妨げ、目的である現場の安全性向上・労働災害の減少に上手くつながらない環境があったのです。
そこで、次の建設DXを取り入れました。
建設DXの例 |
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自然言語処理AIを活用した危険予知システム「SpectA KY-Tool」 |
具体的には、下記の内容に取り組みました。
自社の災害事例および辞書データをAIに学習させる タブレットやPCを用いて過去の災害事例を検索・共有 AIが「作業内容から予想される危険」と「安全指示事項」を提示 電子帳票による「KYシートの作成機能」の実装 |
導入の結果は、下記の通りです。
<安全意識の向上> 災害事例のイラストを共有することで、作業員の危険に対する認識が具体化した 抽象的な安全宣言から、より具体的で実践的な宣言へと変化が見られた 未経験者でも起こりうる危険を視覚的に理解できるようになった |
<危険予知の質と量の向上> AIの補助により、予想される危険と安全指示事項の抽出量が増加した 自力での抽出に比べ、より多角的で質の高い危険予知が可能になった |
<業務効率の改善> 電子帳票化により、KY活動に参加していない職員も遠隔から情報を確認できるようになった 自社開発の工事安全打ち合わせシステム(TPMm)との連携により、帳票作成の時間短縮が実現した |
<安全管理の標準化> AIによる提案で、個人の経験に依存しない安全指示が可能になった 過去の災害事例を活用することで、ベテランでも気づかなかったリスクの発見につながった |
AIを活用した危険予知システムの導入により、安全管理の高度化と業務改善を同時に実現できたのです。
特に、視覚的な情報共有と具体的な危険予知を行えるようになったことで、作業員の安全意識と行動の変化が見られたことは、大きな成果と言えるでしょう。
3. 建設DXの事例に学ぶ!課題解決の成功には自社の課題の明確化と適切なアプローチが大切
ここまでご紹介した事例から、建設DXの導入が、さまざまな課題解決に効果的であるということが伝わったと思います。
しかしながら、企業ごとに導入の規模感が異なるため、なかには「自社の環境では真似することは難しそうだ」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。
実は、事例を通して知っていただきたいのは、他社の成功事例をそのまま真似ることが大切なのではなく、自社の現状に落とし込んで考えることが重要だ、ということです。
なぜなら、建設DXは単なる技術の導入ではなく、業務プロセスの改善や組織文化の変革を伴う取り組みだからです。
建設DXを成功させるためには、下記に示す通り、現場目線での課題の分析を行い、現状で現場に導入できる技術であるか(あるいはしやすいものであるか)を検討することが重要となります。
事例で紹介した企業は、自社の課題を理解し、どのように解決につなげるかを現場の状況に寄り添って考え、実行していました。自社の特性や実情に合わせたカスタマイズが必要なのです。
とはいえ、「建設DXをどう進めていけば良いか」と判断に迷うことも多いでしょう。
株式会社エルラインは、その悩みを痛いほど理解しています。なぜなら、私たちもかつて同じ立場にあり、建築業界の課題解決に向けて試行錯誤を重ねてきたからです。
現場目線でのソリューションの提供こそ、適切なDXアプローチの鍵である経験から得た貴重な知見と、乗り越えてきた課題解決のノウハウを、今度は皆様にお届けしたい |
そうした思いから、実践的なDX導入をサポートしています。
具体的には、建設業界の課題解決に特化した、下記のツールの開発・提供を行なっています。現場での使いやすさと実用性を重視し、中小規模の建設会社でも導入しやすいよう設計しています。
これらのソリューションは、ニーズにあわせた段階的な導入も可能です。
業務効率の向上、コスト削減、そして働き方改革の推進を同時に実現するためにも、ぜひ自社の課題に合わせた建設DXの導入を検討してみましょう。
4. まとめ
この記事では、建設DXの事例を紹介し、具体的な建設DXの効果を解説しました。
最後に記事の内容を振り返りましょう。
まず、「建設DXで一般業務の効率化・省人化に成功した事例」として、次の2つの成功事例をご紹介しました。
一般業務の効率化・省人化に成功した事例 | |
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平山建設株式会社 | 業務効率化と働き方改革に成功 |
株式会社後藤組 | 業務効率化と若手社員の働きやすい環境づくりに成功 |
次に、「建設DXでより専門的な現場の課題を解決した事例」として、次の9つの事例をご紹介しました。
専門的な現場の課題を解決した事例 | |
---|---|
清水建設株式会社 | 配筋検査の効率化と品質向上に成功 |
鹿島建設株式会社 | 現場管理の効率化と生産性向上に成功 |
戸田建設株式会社 | 橋梁耐震補強工事の効率化と精度向上に成功 |
五洋建設株式会社 | 山岳トンネル工事における帳票作成の効率化に成功 |
株式会社鴻池組 | 地中埋設管の損傷リスク軽減に成功 |
株式会社熊谷組 | 山岳トンネル工事における安全性向上と作業効率化に成功 |
株式会社竹中土木 | 構造物掘削施工の効率化と安全性の向上に成功 |
三井住友建設株式会社 | コンクリート締固め作業の品質向上と効率化に成功 |
前田建設工業株式会社 | 安全管理の高度化と業務改善に成功 |
いずれの企業も、現場の課題を把握し、適切なアプローチを行うことで、課題解決に成功しています。ぜひ事例を参考に、自社の特性や実情に合わせた建設DXの導入を検討してみてください。
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