「AIを活用した在庫管理は、従来の在庫管理とは何が違うのか?」
「我が社でも導入した場合、どのようなメリットがあるのか?」
在庫管理に課題を抱えており、AIの活用を検討している企業様は、このような疑問をお持ちではないでしょうか。
AIを活用した在庫管理とは、在庫に関するあらゆるデータをAIに学習・分析させ、在庫を最適な状態に保つ仕組みのことを指します。
AIを活用した在庫管理とはどのようなもの? | |
在庫に関するあらゆるデータ(在庫状況や過去の販売実績)をAIに学習・分析させることにより、在庫を最適な状態に保つ仕組み
【AIを在庫管理に活用する仕組み(イメージ)】 |
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できること | ・商品の需要予測・業務の一部を自動化(在庫カウントなど)・AIカメラで在庫状況をリアルタイムに把握・判断に迷う場面での意思決定のサポート |
導入のメリット | ・過剰在庫・欠品のリスクを軽減できる・業務を効率化できる・人為的ミスを削減できる・業務の属人化を解消できる・在庫管理者の意思決定の負担が軽減する |
導入のデメリット | ・導入にお金と時間がかかる・データ収集に時間と労力がかかる・「完璧な予測」はできない・AI・システムに詳しい人材を確保するのが難しい |
導入方法 | ・AIを活用した機能を搭載している在庫管理システムを導入する・専用ツールやシステムを導入する(需要予測ツール・自動発注システムなど) |
こんな企業におすすめ | ・取り扱う在庫の量や種類が多い・季節や市場トレンドの影響を受けやすい・在庫管理業務が属人化している・慢性的に人手不足・過剰在庫・欠品等のトラブルが多発している・複数の拠点で在庫管理している |
AIを活用した在庫管理の最大のメリットは、エクセルや簡易的な在庫管理システムといった従来の方法と比べて、在庫管理の効率と精度が著しく上げられる可能性があることです。
学習させるデータの量が多いほど精度が上がるため、取り扱う在庫の種類や量が多い企業には特におすすめの在庫管理方法だと言えるでしょう。
本記事では、AIを活用した在庫管理について知りたい企業様に向けて、
・AIを活用した在庫管理とはどのようなものか(仕組み・機能)
・在庫管理にAIを活用するメリット・デメリット
・【業界別】AIを活用して在庫管理が改善された事例
・AIを活用した在庫管理がおすすめな企業・おすすめしない企業の特徴
といった情報をわかりやすくお伝えします。
最後まで読めば、AIを活用した在庫管理がどのようなものか・導入するとどうなるのかを理解できるようになるだけではなく、「自社に導入する価値は有るか無いか」を判断できるようになります。
ぜひお付き合いください。
1. AIを活用した在庫管理とは?

まずは、AIを活用した在庫管理とはどのようなものなのか、以下の順にお話しします。
・AIのデータ学習・分析機能で在庫管理業務を最適化できる
・AIを活用した在庫管理でできること
AIがどのように在庫管理に活用され、その結果現場にどのような変化をもたらすのか、本章を読むことで一通り理解できるようになります。
1-1. AIのデータ学習・分析機能で在庫管理業務を最適化できる
AIを活用した在庫管理とは、在庫に関するあらゆるデータをAIに学習・分析させることにより、在庫を最適化するという仕組みのことです。
【AIを在庫管理に活用する仕組み(イメージ)】

「あらゆるデータとはどのようなもの?」
「在庫を最適化とはどういうこと?」
など、ここまで読んで疑問が浮かんだ方もいらっしゃるかもしれませんので、順番に一つずつ解説します。
AIが学習・分析するデータには、主に次のようなものがあります。
在庫管理においてAIが学習・分析するデータ |
過去の販売実績 活用例)季節・時間帯別の在庫の出荷状況などを解析し、未来の需要予測に役立てる |
現在の在庫状況 活用例)在庫の動きをリアルタイムに把握し、発注の適切なタイミングを予測する |
顧客情報 活用例)顧客の年齢・性別・地域と購入履歴を紐づけ、購入商品の傾向を解析する |
こういったデータに基づいて在庫管理を行うことで、在庫の最適化=人間の勘や感覚に頼った在庫管理よりも高い効率と精度で適正な在庫状況をキープできます。
AI活用で在庫の最適化を図った結果、多くの企業が抱える在庫管理の課題を解決することが可能です。
AIを活用した在庫管理で解決する課題 |
過剰在庫・欠品等のトラブル発生 過去のデータに基づいた需要予測をAIが行うことにより、高い精度で適正在庫をキープできる |
人手不足 商品カウント等の業務をAIが代替することにより、人的リソースに依存しない在庫管理が可能になる |
人為的ミスの発生 業務の自動化により、発注ミスや商品カウントミスといった手作業によるエラーを軽減できる |
業務の属人化 過去のデータに基づいた需要予測をAIが行うことにより、ベテランスタッフの勘や感覚に頼らず誰でも適正な在庫量の決定ができる |
※詳しくは次章「2.在庫管理にAIを活用するメリット」にて解説します。
以上が、AIを活用した在庫管理の「AIのデータ学習・分析機能で在庫管理業務を最適化できる」という仕組みについての解説です。
1-2. AIを活用した在庫管理でできること
AIを活用した在庫管理でできることには、主に次のようなものがあります。
・商品の需要を予測する
・業務の一部を自動化する
・AIカメラで在庫状況をリアルタイムに把握する
・判断に迷う場面での意思決定をサポートしてくれる
一つずつ、詳しく見ていきましょう。
1-2-1. 商品の需要を予測する

AIを活用した在庫管理では、商品の需要予測ができます。
在庫に関するあらゆるデータをAIに学習・分析させれば、未来の需要を予測して効果的な営業戦略を立てることが可能です。
以下は、需要予測に活用できる在庫データの一例です。
需要予測に活用できる在庫データ(一例) |
・過去の販売実績 (時間帯・季節・曜日・天候・市場変動などによる売上推移) ・現在の在庫状況 ・顧客情報 (年齢・居住地域・性別など) ・競合他社の動向 ・購入者のレビュー |
上記のような情報を元に「いつ」「どこで」「誰に」「どんな商品が」売れたのかを分析し、過去のデータを元に、最も適正と思われる在庫量を高い精度で導き出すことができます。
先読みするのが困難な発注の精度を上げることで、
・欠品や過剰在庫のリスクを低減
・在庫量を決定する業務の属人化解消(ベテランスタッフの勘頼りなど)
といった効果が期待できます。
膨大なデータの収集と分析を人間の手と頭で行うのは、非常に難易度が高いうえに手間のかかる作業であるため、在庫管理の需要予測はAIに頼らざるを得ない分野と言えるでしょう。
1-2-2. 業務の一部を自動化する
業務の一部を自動化するというのも、AIを活用した在庫管理でできることの一つです。
発注や棚卸など、これまで人の手で行っていた業務をAIで代替することにより、在庫管理業務の効率化・人為的ミスの削減・人手不足の解消といったさまざまな問題を解決できます。
AIで自動化できる在庫管理業務には、次のようなものがあります。
AIで自動化できる在庫管理業務(一例) |
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発注 過去の販売実績などのデータをAIが学習・分析し、最適なタイミングで最適な量の在庫を自動的に発注する→欠品・過剰在庫等のトラブル防止 |
商品の数量カウント・棚卸 商品の写真をあらかじめAIに画像認識させておけば、棚卸時はスマートフォンやタブレットで在庫の写真を撮影するだけで瞬時に数量を計算できる→棚卸業務の効率化・人為的ミスの削減・人手不足の解消 |
倉庫の監視 倉庫内をAIカメラで撮影・録画し、異常があれば検知して知らせる在庫の動きをリアルタイムで把握できるため、残数が少なくなったらアラートが鳴る等の自動化も可能→人手不足の解消・人件費の削減 |
上記のような業務を自動化できるのは、AIを活用した在庫管理の代表的な機能と言えるでしょう。
1-2-3. AIカメラで在庫状況をリアルタイムに把握する
AIカメラで在庫状況をリアルタイムに把握するというのも、AIを活用した在庫管理でできることのひとつです。
【AIカメラとは?】![]() |
倉庫や棚に高解像度のカメラを設置し、撮影された画像を画像認識AIに処理させることで、在庫の識別やカウントをリアルタイムで行えます。
在庫に出入りがあった際、その情報は在庫管理システムに自動で反映されるため、「今どこに、何が、どれだけあるのか」を常に把握することが可能です。
AIカメラで在庫状況をリアルタイムに把握すれば、次のようなトラブルを避けることができます。
AIカメラで在庫状況をリアルタイムに把握して避けられるトラブル(一例) |
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・バックヤードにあるだろうと思っていた商品が在庫ゼロで、急な発注に対応できなかった ・そろそろ在庫切れになりそうだと思って発注した商品が、倉庫の奥の方から大量に出てきた ・得意先から「この製品、今倉庫にある分の在庫を全て欲しい。いくつ用意できる?」と問い合わせがあり、在庫数の確認に時間がかかってしまった |
このように、正確な在庫把握は在庫管理の品質が上がるだけではなく、顧客との信頼関係を保つためにも重要です。
以上のことから、AIカメラで在庫状況をリアルタイムに把握するというのは、AIを導入した在庫管理の重要な機能だと言えるでしょう。
1-2-4. 判断に迷う場面での意思決定をサポートしてくれる
AIを活用した在庫管理でできること、最後は「判断に迷う場面での意思決定をサポートしてくれる」です。
適正在庫を保つには、以下のようなさまざまなシーンで担当者の「判断」が求められます。
在庫管理で判断を求められるシーン(一例) |
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・そろそろこの商品をプロモーションしたい。キャンペーン開始に合わせて、どのくらい在庫を持たせておくのが最適か? ・長年取り扱ってきたが、最近売れ行きが良くない商品がある。発注数を減らすか、それとも取り扱いを停止するべきか? ・季節によってよく出る在庫が変わるため、倉庫のレイアウトを出し入れの効率が最も良い形にしたいが、何をどこに置けば良いのか? |
企業が機会損失などのダメージを回避するためには、上記のようなシーンでの判断が極めて重要ですが、人間の感覚や経験に100%頼った判断には限界があります。
膨大な過去のデータに裏付けられた分析・予測をしてくれるAIを活用すれば、意思決定に不安を感じている現場でも、迷わず迅速な判断がしやすくなります。
AIに全ての判断を委ねるのは危険ですが、
・AIの分析結果を参考にしつつ、最終的には人間の頭で考えて意思決定をする
・「あとは運頼み」といったシーンで最終的な意思決定の背中を押してもらう
といった補助的なものとして活用すれば、在庫管理の精度の向上・担当者の負担軽減に繋がるでしょう。
2. 在庫管理にAIを活用するメリット

在庫管理にAIを活用するメリットは、一言で言うと「在庫管理の効率と精度が上がる」ことです。
具体的には、以下のようなメリットが挙げられます。
・過剰在庫・欠品のリスクを軽減できる
・業務を効率化できる
・人為的ミスを削減できる
・業務の属人化を解消できる
・在庫管理者の意思決定の負担が軽減する
貴社が抱えている在庫管理の課題や悩みが解消されそうなメリットがないか、確認しながら読み進めていきましょう。
2-1. 過剰在庫・欠品のリスクを軽減できる
在庫管理にAIを活用する最も代表的なメリットと言えるのが、過剰在庫・欠品のリスクを軽減できることです。
AIの「需要予測」や「自動発注」を活用することで適正在庫をキープしやすくなり、人間が在庫管理する際に発生するトラブルやミスを未然に防げます。
一体どういうことか、詳しく見てみましょう。
AIの「需要予測」で過剰在庫・欠品のリスクを軽減 |
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【AIを活用した在庫管理の場合】 ・過去の販売実績 ・顧客情報 といった膨大なデータから未来の需要を予測し、入荷する在庫数、倉庫に保有しておくべき在庫数を算出する →データにないイレギュラーな事態が発生しない限りは、適正在庫をキープし続けられる |
【人間による在庫管理の場合】 「去年もこのくらい入荷したはず」 「今年はもっと売れそうな気がする」 など、過去の経験や勘に基づいて感覚的に需要を予測し在庫数を決定する →AIと比較すると予測の精度は低く、予測が外れて過剰在庫・欠品となるリスクが高い |
AIの「自動発注」で欠品のリスクを軽減 |
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【AIを活用した在庫管理の場合】 AIカメラで在庫状況を常時リアルタイムで把握し、在庫の残数が一定数を下回れば、瞬時に自動で追加の発注をする →「発注が遅れて欠品」という事態は、システム上のトラブルがない限りは発生しない |
【人間による在庫管理の場合】 ・在庫残数を誤って把握していた ・発注を忘れていた といった人為的ミスによる欠品の発生リスクがある |
このように、AIを活用した在庫管理には、過剰在庫・欠品のリスクを軽減できるというメリットがあります。
2-2. 業務を効率化できる
業務を効率化できるというのも、在庫管理にAIを活用する大きなメリットです。
AIの「需要予測」や「業務の自動化」を活用すれば、これまで多くの時間や人員を割いていた業務の一部を削減できる可能性があります。
一体どういうことか、詳しく見てみましょう。
AIの「需要予測」で業務を効率化 |
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需要予測により、高い精度で適正な在庫量をキープできる
→余分な在庫が削減されることにより、棚卸やロケーション管理や作業スピードが上がる |
AIの「業務の自動化」で業務を効率化 |
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発注や棚卸など、業務の一部を自動化できる
→人の目と手で行うよりも作業スピードが格段に上がる |
実際に、在庫管理にAIを導入した企業の中では
「棚卸の作業時間が約半分になった」
「1日の発注業務が60分から10分に削減できた」
引用元:https://musubi.kakehashi.life/case/230714-steeayakkyoku
引用元:https://musubi.kakehashi.life/case/230623-aqua
といった声も上がっています。
以上のことから、作業時間の長さや人手不足に悩む企業にとって、AIの活用は大きなメリットだと言えるでしょう。
2-3. 人為的ミスを削減できる
在庫管理にAIを活用するメリット、3つめは「人為的ミスを削減できること」です。
AIによる「業務の自動化」「需要予測」「リアルタイムな在庫の把握」を活用し、人の目や頭に頼る工程を減らすことで、自然とミスの発生する機会を減少させられます。
具体的には、次のように人為的ミスを削減できます。
AIの「業務の自動化」で人為的ミスを削減 |
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・発注業務:自動化させることで、発注忘れや数量の記入ミスを防ぐ ・棚卸業務:自動化することで、人間の目視による商品カウントミスが発生しなくなる |
AIの「需要予測」で人為的ミスを削減 |
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・需要よりも大幅に多い在庫を入荷し、大量の在庫を抱える ・需要よりも大幅に少ない在庫を入荷し、欠品状態になる 等の発注の判断ミスが、AIによる高精度な需要予測で軽減できる |
AIの「リアルタイムな在庫の把握」で人為的ミスを削減 |
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・欠品や過剰在庫といったトラブルは、理論在庫と実在庫の差異が原因で発生することが多い
→AIカメラでリアルタイムな実在庫を常に把握しておけば、これらのミスを未然に防げる |
Excelやアナログな手法で在庫管理をしている現場の場合、人為的ミスは簡易的な在庫管理システムを導入すればある程度のレベルまでは削減できる可能性があります。
しかし、人間が携わる業務を限界まで減らしミスの削減を徹底するのであれば、AIを搭載した在庫管理システムの導入が効果的でしょう。
2-4. 業務の属人化を解消できる
業務の属人化を解消できるというのも、在庫管理にAIを活用するメリットの一つです。
具体的には、AIの高精度な需要予測を活用することにより、誰でも適正な在庫量を保てるようになります。

「将来の需要を予測し在庫量を決定(発注)する」という業務は、現場の責任者やベテランスタッフがこれまでの経験に基づく勘や感覚で行っているケースもありますが、業務が属人化することで
・担当者の不在時に業務が滞る
・担当者に業務が集中し、負担が大きくなる
といったデメリットがあるため、このような業務形態はあまり好ましい状態とは言えません。
需要予測をAIに代替すれば、経験の浅いスタッフでも適正な在庫量の判断・発注業務を任せられるようになります。
AIの需要予測には、在庫管理の精度を上げるだけではなく、「この人にしかできない業務」をなくすことで業務負担の分散がしやすくなるというメリットもあることを認識しておきましょう。
2-5. 在庫管理者の意思決定の負担が軽減する
在庫管理にAIを活用するメリット、最後は「在庫管理者の意思決定の負担が軽減する」です。
意思決定をする際に生じる責任の一端をAIに担ってもらうことで、心理的負担を減らす効果があります。
前章「1-2-4.判断に迷う場面での意思決定をサポートしてくれる」では、在庫管理にはさまざまなシーンで担当者の「判断」が求められるとお伝えしました。
【おさらい】在庫管理で判断を求められるシーン(一例) |
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・そろそろこの商品をプロモーションしたい。キャンペーン開始に合わせて、どのくらい在庫を持たせておくのが最適か?
・長年取り扱ってきたが、最近売れ行きが良くない商品がある。発注数を減らすか、それとも取り扱いを停止するべきか? ・季節によってよく出る在庫が変わるため、倉庫のレイアウトを出し入れの効率が最も良い形にしたいが、何をどこに置けば良いのか? |
上記のような意思決定をする際、判断を誤ると過剰在庫や欠品のリスクが伴うことから、担当者には心理的負担がかかります。
そんな時、意思決定の責任の一部を担ってくれるのがAIです。
過去の売上や顧客情報を学習したAIは、その膨大なデータを元に精度の高い分析を行います。
AIの分析結果と担当者の判断をすり合わせて出した結論は「担当者の一存」ではなくなるため、万が一判断が誤りであっても、担当者の心理的負担は少なからず軽減されるでしょう。
・担当者が快適に働けるようになる
・他の業務にも手が回りやすくなる
といった付随的なメリットもあり、在庫管理者の意思決定の負担が軽減するというのは、AIを活用した在庫管理の重要なメリットであると言えます。
3. 在庫管理にAIを活用するデメリット

続いては、在庫管理にAIを活用するデメリットをご紹介します。
・導入にお金と時間がかかる
・データ収集に時間と労力がかかる
・「完璧な予測」はできない
・AI・システムに詳しい人材を確保するのが難しい
貴社にとってメリットとデメリットのどちらが大きいか、天秤にかけながら確認していきましょう。
3-1. 導入にお金と時間がかかる
在庫管理にAIを活用する最も代表的なデメリットと言えるのが、導入にお金と時間がかかることです。
AIの導入は、在庫管理現場の課題を解決し企業に利益をもたらすものですが、同時に大きな赤字を生むリスクも潜んでいます。
在庫管理にAIを導入する場合
・AIを活用した機能を搭載している在庫管理システムを導入する
・専用ツールやシステムを導入する(需要予測ツール・自動発注システムなど)
等の方法がありますが、いずれの方法も新たなシステムを一から導入することから、一定のコストがかかります。
具体的な費用はベンダーが非公開にしているケースが大多数ですが、新たにシステムを導入する際の費用・期間相場は次のとおりです。
在庫管理系システムの費用・期間相場 | ||||
タイプ※ | 初期費用 | 維持費用 | 導入までにかかる期間 | |
クラウド型 | 〜数十万円
【内訳】 |
数万円~数十万円/月 | 〜半年 | |
オンプレミス型 | ~数千万円
【内訳】 |
年間数百万円〜 | 半年〜1年以上 |
※クラウド型:ベンダーの提供するサーバーを使用する、月額課金型のシステム
オンプレミス型:自社サーバーに一から構築・開発する、オーダーメイドのシステム
その他AIカメラ等の機材を導入する場合は、機材本体の費用や取り付け工事の費用が別途かかるケースもあります。
「初期費用が数十万円程度なら問題ない」と感じるかもしれませんが、クラウド型システムの場合はランニングコストがかかるため、長期間利用することで累計1,000万円程度の費用がかかるケースも珍しくありません。
いざ稼働させてみたら大赤字、といった事態にならないよう、導入前には
・あらかじめ「AI導入に出せるのはここまで」という予算を決めておく
・ベンダーとの初回の問い合わせで初期コストは必ず見積もる
・費用対効果がきちんとあるか、まずは導入の目的を明確化する
といった対策をしておくことをおすすめします。
3-2. データ収集に時間と労力がかかる
データ収集に時間と労力がかかるというのも、在庫管理にAIを活用するデメリットの一つです。
AIによる高精度な需要予測・業務の自動化を活用するためには、導入前の準備として分析の材料となるデータの収集をしなければなりません。
この準備は自動化できず、人の手で行わなければならないため、企業によってはこの準備だけで何ヶ月も費やしてしまう可能性があります。
データ収集をどのように行うか、以下の具体例をご覧ください。
AIによる「需要予測」を導入する場合 |
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元のシステムやExcelファイルから過去数年分の
・販売実績 ※収集するデータ・対象期間は、分析方法によって異なる |
AIカメラによる「自動商品カウント」を導入する場合 |
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在庫として保管している全ての商品の写真を撮影し、AIに画像認識させる
※アパレルなどの業界の場合、色違い・サイズ違いの商品も全て撮影・画像データ化が必要なケースもある |
繁忙期を避け、十分な作業時間と人員を用意してデータ収集に取り掛かろうと思うと、導入から指導までに多くの時間を費やすことになります。
特に、これまで簡易的な古いシステムやアナログな手法で在庫管理をしていた企業の場合は、データ化に膨大な時間と手間がかかることを覚悟しておく必要があるでしょう。
AI導入にどのようなデータが必要でおおよそどのくらいの時間がかかるか、見積もり時にベンダーへ前もって確認しておくことをおすすめします。
3-3.「完璧な予測」はできない
在庫管理にAIを活用するデメリット、3つめは「完璧な予測はできない」です。
これまで「AIの活用によって高度の需要予測が実現可能」と繰り返しお伝えしてきましたが、「需要」は人間の感情や社会の動きによって作り出されるものであるため、AIには対応できない想定外の動きを見せることがしばしばあります。
AIの需要予測では対応できない想定外の事象には、次のようなものがあります。
・異常気象
・競合他社の動き(新商品の発表など)
・社会情勢(急激な景気の悪化など)
・感染症のパンデミック
このようなイレギュラーな事態が発生した場合、過去のデータをどれだけ高精度に分析しても、AIの需要予測は意味のないものになってしまう可能性があります。
AIを活用して需要予測を行う場合は、AIに「完璧な予測」はできないことを念頭に置いたうえで、最終的な判断は人間が行うと良いでしょう。
3-4. AI・システムに詳しい人材を確保するのが難しい
在庫管理にAIを活用するデメリット、最後は「AI・システムに詳しい社員がいないと失敗する可能性がある」です。
あらゆる業界でAIへの注目が急速に高まっている今、機械学習やディープラーニングについて専門知識を持つ「AI人材」の需要が非常に高く、共有が追いついていないという現状にあります。
AIを企業内に導入・運用するためには、担当部署の社員に一定のITリテラシーが必要ですが、
・スキルの高い人材ほど大手企業やAI分野で最先端にいる企業に雇用されてしまう
・AIの技術は日々進歩しているため、常に最新の知識をキャッアップするのが難しい
・専門性が高く、既存社員を一から教育するには時間とコストがかかる
といった理由から、人材面での受け入れ体制が整わないケースも少なくありません。
導入したいと思うシステムやツールがあっても、それを使いこなせる人材がいないことには、AIの導入は困難です。
このデメリットへの対処法としては、以下のようなものがあります。
AI人材が不在の企業でもAIを活用したツール・システムで在庫管理をする対処法 |
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・技術・知識面をサポートしてくれるベンダーと契約する ・比較的導入ハードルの低いノーコードシステムや簡易的なツールを使う |
AI人材が不在の企業でも導入できるか、導入後も問題なく現場が機能するか、まずはベンダーに問い合わせてみると良いでしょう。
以上が、在庫管理にAIを活用する4つめのデメリット「AI・システムに詳しい人材を確保するのが難しい」でした。
4. 【業界別】AIを活用して在庫管理が改善された事例

ここからは、AIを活用して在庫管理が改善された事例を
・薬局
・飲料メーカー
・アパレル
と業界別にご紹介します。
AI導入によって現場にどのような変化が現れるのか、より具体的にイメージしたいという方はぜひご覧ください。
【薬局の事例】アナログな在庫管理から、AI搭載の在庫管理システムに変更 1日の発注業務の時間が60分→10分に短縮 |
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【AI搭載の在庫管理システムを導入した背景】 長年のリピーターが多く、多様なニーズに応えるために多種多様な医薬品在庫を保有してきたことから、欠品を避け過剰な在庫を抱える傾向があった。発注業務は紙ベースのアナログな手法を取っていたが手が回らなくなり、AI搭載の在庫管理システム導入を決定した。 【AI導入の効果】 |
【大手飲料メーカーの事例】Excelによる需要予測から、AI需要予測システムに変更 欠品・過剰在庫を大幅に削減 |
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【AI需要予測システムを導入した背景】 Excelによる需要予測と生産計画の作成を行ってきたが、生産している飲料の賞味期限が短いことから、欠品や賞味期限切れ在庫を抱える等の課題を抱えていた。需要予測の精度を高めることを目標に、AI需要予測システムの導入を決定した。 【AI導入の効果】 |
【大手アパレル企業の事例】 熟練担当者に頼った在庫管理から、AIによる需要予測&自動補充システムを導入 発注業務が30分→2分に短縮 |
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【AIによる需要予測&自動補充システムを導入した背景】 顧客ニーズの多様化やトレンドの急速な変化が激しいアパレル業界で、これまでは熟練の担当者が経験を元に在庫管理を行ってきたが、業務の属人化・効率の悪さが課題だった。状況を改善すべく、「AI需要予測型自動発注システム」を開発した。 【AI導入の効果】 |
5. AIを活用した在庫管理がおすすめな企業・おすすめしない企業

最後は、AIを活用した在庫管理がおすすめな企業・おすすめしない企業の特徴についてお話しします。
AIを活用した在庫管理がおすすめな企業 | AIを活用した在庫管理をおすすめしない企業 |
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・取り扱う在庫の量や種類が多い
・季節や市場トレンドの影響を受けやすい ・在庫管理業務が属人化しており、慢性的に人手不足・過剰在庫 ・欠品等のトラブルが多発している ・複数の拠点で在庫管理している |
・少量多品種の在庫を扱う企業
・初期投資に余裕がない |
ここまで記事を読んで、「在庫管理にAIを導入すべきかどうか、まだ迷っている」という場合は、本章の内容を判断材料に活用していただければ幸いです。
5-1. AIを活用した在庫管理がおすすめな企業
AIを活用した在庫管理がおすすめな企業の特徴は、次のとおりです。
AIを活用した在庫管理がおすすめな企業の特徴 |
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取り扱う在庫の量や種類が多い
・多種多様な商品を取り扱う企業では棚卸や発注などの業務に時間がかかるため、AIによる自動化で業務の効率が向上しやすい ・在庫や顧客のデータを大量に蓄積しやすく、AIに学習させるデータの量が多いほど高精度な需要予測がしやすい |
季節や市場トレンドの影響を受けやすい
AIが過去の売上推移や外部要因を分析することで、今までより精度の高い需要予測を行える可能性がある(アパレル・化粧品・食品など) |
在庫管理業務が属人化しており、慢性的に人手不足
・AIを導入することで、経験や勘に頼らない標準化された在庫管理が可能になる |
過剰在庫・欠品等のトラブルが多発している
過剰在庫や欠品は需要予測がうまくいっていないことで発生するトラブルであるため、AIの精密な需要予測で適正在庫を維持することで、過剰在庫・欠品リスクは軽減できる |
複数の拠点で在庫管理している
・倉庫や店舗などを複数かかえている企業の場合、AIを活用することで複数拠点の在庫を一元管理し、効率的な運用が可能になる ・全ての拠点でリアルタイムな在庫情報を共有できるため、拠点同士の連携も円滑になる |
業務の自動化や高精度な需要予測など、AIの特性と企業の課題がマッチしている場合は、在庫管理にAIを導入することで大きな効果を実感できる可能性が高いです。
上記の特徴に当てはまるものが一つでもあれば、AIを搭載した在庫管理システムのベンダーに問い合わせてみることをおすすめします。
5-2. AIを活用した在庫管理をおすすめしない企業
続いて、AIを活用した在庫管理をおすすめしない企業の特徴を見てみましょう。
AIを活用した在庫管理がおすすめしない企業の特徴 |
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少量多品種の在庫を扱う企業
在庫に関する情報が少ない場合、AIに学習させるデータを蓄積しづらいため、需要予測の精度が低くなる可能性が高い |
初期投資に余裕がない
システム導入の初期コストを負担できない・導入後のランニングコストに耐えられない場合は、無理にAIを導入し一時的に効果が出ても、キャッシュフローが回らなくなり活用を継続できない恐れがある |
取り扱う商品の種類や量が極端に少ない企業や、そもそもシステムのリプレイスが予算オーバーである企業の場合は、AIを活用した在庫管理システムを導入しても失敗に終わるリスクがあります。
上記の特徴のうち当てはまるものが1つでもあった場合は、AIの導入以外の手法で在庫管理を改善することも視野に入れておくと良いでしょう。
5-3. 在庫管理のAI導入に慎重になったほうが良い企業
「5-2.AIを活用した在庫管理をおすすめしない企業」に当てはまらなかった場合も、以下のような企業は。AIを活用した在庫管理に慎重になった方が良いでしょう。
在庫管理のAI導入に慎重になったほうが良い企業の特徴 |
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AI人材や技術的知識が不足している
AIシステムを運用できる専門家がいない・デジタル技術に不慣れなスタッフが大多数・システム導入後の運用スキルを持つスタッフがいないという場合、多額のコストをかけて導入してもAIや新しい在庫管理システムが現場に定着しない恐れがある【対処法】・技術・知識面をサポートしてくれるベンダーと契約する・比較的導入ハードルの低いノーコードシステムや簡易的なツールを使う |
倉庫の環境がAIカメラの設置に適していない
・どこに設置しても死角ができてしまう といった環境の場合、AIカメラを設置できない・設置できても業務の効率化に繋がらない恐れがある 【例外のケース】 【導入に失敗しないための対処法】 |
上記の特徴は、AI導入に適していない企業の特徴とも言えますが、システムの機能や契約するベンダーによっては導入に成功するケースもあります。
在庫管理にAIを上手く活用できるかどうか、複数のベンダーに相談したうえで、慎重に導入するか否かを決めると良いでしょう。
建設業界でAIを活用した在庫管理システムをお探しの方はエルラインへ |
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6. まとめ
最後に、本記事の重要ポイントをおさらいします。
▼AIを活用した在庫管理とは
AIを活用した在庫管理とは、在庫に関するあらゆるデータ(過去の販売実績や顧客情報など)をAIに学習・分析させることにより、在庫を最適化するという仕組み【主な機能】・商品の需要を予測する・業務の一部を自動化する・AIカメラで在庫状況をリアルタイムに把握する・判断に迷う場面での意思決定をサポートしてくれる |
▼在庫管理にAIを活用するメリット
・過剰在庫・欠品のリスクを軽減できる・業務を効率化できる・人為的ミスを削減できる・業務の属人化を解消できる・在庫管理者の意思決定の負担が軽減する→取り扱う在庫の量や種類が多く、在庫管理の改善にある程度の予算を割ける企業にはおすすめ |
▼在庫管理にAIを活用するデメリット
・導入にお金と時間がかかる・データ収集に時間と労力がかかる・「完璧な予測」はできない・AI・システムに詳しい人材を確保するのが難しい→少量多品種の在庫を扱う企業・初期投資に余裕がない企業には導入をおすすめしない |
本記事の内容が、貴社の在庫管理改善の参考になりましたら幸いです。
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